2015年5月10日
栃木県と群馬県にまたがる皇海山に行ってきました。標高は2144mです。
足尾山地に属しており、栃木県の奥深い場所に位置しています。庚申山の奥の院であり、山岳信仰の山の一つです。
日本百名山の一つですが、山頂の展望がない等、百名山で一番地味と噂されています。
現在では群馬県側からの不動沢ルートが主ですが、今回は伝統的なルート(クラシックルート)である栃木県側の銀山平から庚申山・鋸山を経由するルートを歩きました。
コースタイムが長く、通常は山中にある庚申山荘で一泊するのが定番です。しかし、前日が雨という事で、日帰りを余儀なくされました。
合計時間14時間50分にも及ぶ過酷な旅となりました。
皇海山について
地図
栃木県足尾町にある国民宿舎かじか荘を基点とした伝統あるコース(クラシックルート)を歩きます。
登山口から庚申山までは一般ルートですが、庚申山から鋸山は梯子と鎖が連続する難所が続く破線ルートです。鋸山から六林班峠を経由する下山ルートは笹藪がひどく道迷いしやすいコースでした。
コースタイム
- 4:30国民宿舎かじか荘
「おやま巡りコース」を通過
- 9:00庚申山
- 11:58鋸山
- 13:06皇海山
- 14:17鋸山
- 15:43六林班峠
- 19:20国民宿舎かじか荘
行動時間は14時間50分でした。
皇海山を目指す場合、「おやま巡りコース」を経由してしまうと、2時間プラスされてしまいます。庚申山荘から真っすぐ庚申山を目指してください。
皇海山クラシックルート
銀山平キャンプ場でコテージ泊
森の中で迷った主人公が、同じ場所に何度も戻ってくる。そんなシーンが回想される。自分達はヘンゼルとグレーテルになったのではないかと脳裏をよぎる。
「ここで何をしているの?」問いかけられる
「僕は何しているんだろう」そう答える
山はいつもより早く太陽を隠し、深い森を闇の世界に作り変えて行く。
はい、今回は栃木県足尾町にある皇海山です。
「男だけで皇海山の栃木県側のルートを登ろうぜッ!!!」
という自分の呼びかけ対し、3人の若者が名乗りをあげてくれました。登山界隈で最も低品質な登山隊「スカイサンズ」が結成されました。
意気揚々とやってきた北関東の最果て。
そこで僕たち隊員が体験したのは、かつてないほどの厳しい試練の連続だったのです。
皇海山登山の前日に銀山平キャンプ場のコテージに宿泊しました。気怠さを伴いながら、3時30分に起床し、準備をのそのそと開始します。
「スカイサンズ」のメンバはレッドシュガー(@sakemaro_red)、ゆうちゃん(@yusukeboy1212 )、くまちゃん(@kumadanone)です。
月に2回~3回のように山に繰り出し、数々の山を経験しているメンバです。
4時30分 国民宿舎かじか荘(皇海山登山口)
国民宿舎かじか荘に皇海山の登山口があります。銀山平キャンプ場とほぼ併設しています。
当初の予定では登山口から2時間30分のところにある素泊まり2000円の庚申山荘(無人の山小屋)に宿泊する予定でしたが、土曜日が夕方まで雨だったため、銀山平キャンプ場に宿泊した経緯があります。
宿泊は快適だったが、より長い時間歩くことになってしまった。
車両通行止めのゲートをよけて、皇海山登山を開始します。
コースタイム1時間20分の長い林道歩きです。
奥に駐車場があったので、一般車両が通行できたのでしょうけど、現在は落石で道がぼこぼこでした。マウンテンバイク持参でチートしたいところです。
庚申川に沿って林道が続いています。5月中旬ともなれば、標高1000m前後で新緑が始まっているので、緑が深いです。
林道には見どころポイントを表示する看板が設置されています。
坑夫滝は見えなかったし、悲話の説明もなく、何のことやら。
天狗の投石。
ただの山崩れにしか見えないが、天狗様の仕業なのでしょう。
平坦な林道歩きが続きます。
「いや~帰りにここをもう一回歩くのはめんどくさいな~」
「HAHAHA~」
と、ゆるい会話をしていましたが…。
庚申信仰の庚申山
5時32分 庚申山登山口
林道を歩き終えて、登山口に到着です。入口に猿田彦神社の鳥居があり、山岳信仰の名残が見受けられます。三重県の伊勢神宮にある神社のようです。
皇海山は庚申山の奥に鎮座しているため、案内は存在しなかったり。
庚申信仰(こうしんしんこう)とは、中国道教の説く「三尸説(さんしせつ)」をもとに、仏教、特に密教・神道・修験道・呪術的な医学や、日本の民間のさまざまな信仰や習俗などが複雑に絡み合った複合信仰である。
庚申信仰の山となっています。
庚申信仰はまた神道の猿田彦神とも結びついているが、これは「猿」の字が「庚申」の「申」に通じたことと、猿田彦が塞の神とも同一視され、これを「幸神」と書いて「こうしん」とも読み得たことが原因
登山者的には申年に登るべき山という事です。そして、毎度おなじみ関東ふれあいの道に指定されています。
レッドシュガーを先頭に登山開始です。
レッドのウェアが新緑の中で目立っています。紅一点というやつです。
前日に雨が降ったせいか登山道を横切るように沢が流れており、岩伝いに対岸に渡ることもしばしば。
足尾名瀑「庚申七滝」という看板があったので、少し寄り道をします。ゆうちゃんのザックに外付けされている鯉のぼりが5月っぽいですね。
ハイキングコースが整備されています。林道が通行止めになる以前は多くのハイカーで賑わっていたのでしょうか。
七つの滝が連続しているかはよくわかりませんが、新緑の中を流れる滝は清々しい。
この時は、見どころを抑えて行こうという気概が全然ありました。
沢沿いの登山道を進んで行きます。傾斜はなだらかで、土の地面なので非常に歩きやすかったです。
磐裂神社から庚申山まで114丁(旧道)「百丁目」と記載された看板が設置。磐裂神社は足尾の町内にある神社のようです。
ちなみに父親が足尾に住んでいたことがあり、足尾については子供の頃に何度も来たことがあります。
まだまだ、太陽の光が射しこまない山の中を進んで行く隊一向。前方に巨大な岩が立ち塞がっています。
鏡岩。
伝承が説明されていますが、長くなるだけなので割愛。
関東ふれあいの道についての記載がありました。
「ヤシオ咲く庚申のみち」として整備されているようです。ちなみに皇海山は入っていませんよ?
空を見上げると上空に花が咲いています。
アカヤシオです。
栃木県の山では4月中旬から5月中旬にかけて、多くの山域で見ることが出来ます。
日光市内にある鳴虫山などで見ることが出来ます。
続いての岩シリーズ「仁王門」
二つの巨大な岩の間を潜り抜けるように歩きます。二つのものに挟まれるのが大好きな「エロい」という言葉でおなじみのくまちゃん。
仁王門を過ぎると「猿田彦神社跡」となっている広場になります。
6時34分 猿田彦神社跡
かつては神社があったばしょなのでしょうが、今は青銅の剣があるのみです。
庚申山荘と庚申山(お山巡り)の分岐点になっています。
庚申山への最短ルートは庚申山荘方面から行く方が1時間弱短縮でき、皇海山に行く場合も尚のこと短縮されます。
庚申山の修行の場、お山巡りコースへ
「どうせならお山巡りした方がええんちゃう?」
という意見により、1時間弱の長いルートを歩くことになりました。
庚申山荘に泊まれなかったことに加え、お山巡りコースの選択により、3時間以上コースタイムがプラスされていることへの不安など、この時は誰も感じていなかったのである…。
このポイントで朝食を補給しました。
那須高原牛乳パンという栃木県的な食事です(初めて食べた)
水仙がぽつぽつと咲いていたのは誰かが植えたんでしょうか。違和感のある場所に咲いていました。
何もない方向をジッと見つめるレッドシュガー。
彼には一般登山者が見えないものが見えているのでしょうか。
刈り上げたばかりの髪が朝日に照らされていました。
お山巡りコースの全容図があります。アクションゲームのステージ紹介みたいで非常に楽しそうに感じます。
上級国民ならぬ上級登山者とは。
ホグロフスやアークテリクスなどの高級アウトドアブランドをふんだんに取り入れた登山者でしょうか。僕は1000円のアンダーシャツを3年以上使っている下級登山者です。
巨大な桂の木がありました。葉っぱが丸くて好きなんですよね。
ここより先はまだ緑はなく、まだ芽吹いていないようでした。
しかしながら、山に春を告げるアカヤシオの木が増えてきました。
隈笹(クマザサ)の茂るつづら折りの登りで、標高を稼いでいきます。
上へと進むにつれて、岩が露出した箇所が出現し、それに合わせて梯子が登場します。
木々の隙間から見える足尾山地の山並み。
栃木県は那須、尾瀬・南会津、日光エリアなどの山域に分かれます。足尾山地の周辺にはとりわけ目立つ山がないが、奥深さが魅力です。
前日の雨で多少散ってはいたものの、庚申山のアカヤシオの開花時期のようでした。
アカヤシオは細い枝に大振りの花が咲き、力強さと儚さが共存している花だと思います。ツツジの中でも特に好きな種類です。
岩壁をくり抜いた登山道に変わっていきます。群馬県の妙義山の中間道のような道です。
道幅は十分に確保されているので、そこまでの恐怖はありませんでした。
岩壁から岩壁へと続く吊橋が登場します。
結構、お金かけて整備されています。林道さえ何とかなっていれば、登山者はもっと増えるんだろうなと。
手すりが落石と倒木によりひしゃげていました。
慎重な足取りのレッドシュガー。
ザックとショートパンツの差し色がピンクのくまちゃんを先頭に難所を乗り越えて行きます。
何度も梯子が登場します。
安定感があるため、多少のスリルを味わいつつも楽しい道です。
進行方向右側は断崖絶壁。修験の山って感じです。
馬の背とよく山にあるポイントは、その名の如く両サイドが断崖の道です。鎖を頼りにゆっくりと歩きます。
ここには突出して高度感を演出してくれる「登るべき岩」が存在します。
扇を掲げ、庚申山にあっぱれなレッドシュガー。
遥か後方より撮影するゆうちゃん。バックは庚申山の本体です。
紅葉の時に来たらより素晴らしい風景になっていそうな予感がします。
お山巡りコースはまだまだ続きます。鬼の耳こすりというポイント。
耳の付け根の部分を表現しているのだろうか…。岩の隙間に階段が設置されていました。
補助が設置されていない箇所もあり、そういうところの段差は慎重に上り下りします。
断崖をくぐる道が続きます。
岩壁の穴にはかつての修験者が設置したであろう祠や錫杖などがありました。
道中には残雪も。
この岩場付近に固有種のコウシンソウという花が咲きます。開花時期は6月なので咲いていませんでしたが、珍しい食虫植物らしいです。
這いつくばってくぐるような岩も登場。
庚申の岩戸という場所がありました。
宮崎県高千穂にある天岩戸(あまのいわと)のオマージュなのだろうか。
飽きの来ないお山巡りコースも終盤です。
お山巡りコースが終わり、庚申山荘からのルートと合流しました。
平行移動していましたが、山頂へ向けて急な登りが開始されます。
岩壁の隙間を縫うように梯子を登っていきます。
岩壁の上部にやってくると常緑樹の樹林帯に変わり、険しい道はなくなりました。
この日はとても風が強く、びゅーびゅーと音を立てています。
お山巡りを無事にクリア、庚申山の山頂へ
9時00分 庚申山
登山口のかじか荘をスタートし、4時間半で庚申山に到着しました。
展望は全くありませんが、奥に少しだけ進めば展望地があります。
スタートから4時間半経過していますが、本日登る山の3分の1という事実。ここで引き返せば、まあまあ歩いた日帰り登山で終わるのです。
「長時間のロングコースを歩くぞ!!!」
という気持ちでやって来ているので、これから先に待ち構えている試練をドンと来いと構えていました。
庚申山から奥に2分ほど歩くと北側の展望が開けている場所があります。
目的地である皇海山の姿が現れました。
お世辞にも名山指定される見た目とは言いづらいですが、どっしりとした末広がりな山容はインパクトがあります。
実際、周囲にある山々から見ると「あれ、皇海山だな」とわかります。
栃木県を代表する男体山が見えました。
同時に日光白根山も見えます。
日本海側に限りなく近く、2500mの高峰であるため、多くの雪を残していました。
石楠花ごしの皇海山という構図。
庚申山の山頂ではまだ山桜が咲いていました。
皇海山に対して挑発的な集合写真を撮るほどに元気でした。
この時までは…。
背丈まである隈笹で道迷い、鎖と梯子の危険な鋸尾根
はてさて、ここからが皇海山への開始地点と言っても良いでしょう(4時間半ほど経過しているわけだが)
庚申山から鋸山には尾根道を歩きになります。
庚申山の登山道は攻撃的なロックンロールな道でしたが、尾根道は思ったほど傾斜もなく、緩やかに平行移動していきます。
鋸山までは11のピークを越えていきます。
まずは御岳山が登場です。庚申山が1峰なので、こちらは2峰。
岩場もなく、樹林の中を軽やかに歩ける尾根道です。
歩きやすい、尾根道…。
歩きやすい尾根道とは…?
隈笹が人間の背丈を越える程に成長しているゾーンに入り、先行している隊員が見えない程でした。
俗にいう藪漕ぎが始まったのです。
5月中旬とは言え、栃木県の標高1800mでは残雪があります。
残雪と熊笹で夏道は埋もれてしまって、2回の道迷いをしてしまいました。10分ほどで尾根上の本線を見つけ、遭難を回避することができました。
注意深くピンクテープや木に設置された目印を探す必要があります。
5月中旬以降であれば、雪も溶け、人も歩くようになるので大丈夫かとは思います…。
渓雲山に到着。
こちらは4峰。3峰の駒掛山は発見できず。
シャクナゲの蕾がありました。5月下旬ごろから開花が始まりそうです。
薬師岳に到着。
こちらは6峰。5峰の地蔵岳は発見できず。
皇海山が徐々に近づいてきました。
シャクナゲの葉っぱの中に捨て置かれたように白山を発見。こちらは7峰。
白山を過ぎると様相は一変し、断崖の岩場の連続となります。進行方向である鋸山を眺めると嫌なところに鎖場があるなというのがわかって辛い…。
鋸山本体へはまず一度くだる必要があります。
ということで、尾根上の最初の鎖場。
長さは10m以上はあります。上部は岩なのですが、下部が土の斜面であるため、ずるっと滑らないように注意しながら慎重を期します。
鎖はダラッと垂れているだけ、途中箇所が固定されていないため、腕の力が必要です。
梯子も登場です。
中間固定があまりされていないので、一般ルートにある鎖場や梯子だと思うと痛い目に遭います。
鎖場を登り終えて、安全確保してから、次の隊員に声を掛けて登ってもらいます。このルーチンで、思いのほか時間が掛かります。
8と9峰の蔵王岳と熊野岳は見つかりませんでしたが、岩場のどっかだったんだろう。
鎖場や梯子などのスリリングを楽しめる人は一定の割合でいますが、わが隊員はゆるやかな道を好むので、どちらかというと苦手な部類。
ルート上に仕方なくあるから危険個所を歩くのです。
大自然のトマソン(※)か?
不自然な感じの見た目で、岩に梯子が設置されていました。ちゃんとルートのようで登るのが正しい。
岩の上に何も掴むところがないので怖い…。
梯子ってくだるとき本当に怖いです…。
剣ノ山に到着。
こちらは10峰、後は鋸山を残すのみです。
のちにカサカサ動くと評されるレッドシュガーの華麗な登りを見よ。
下山ルートで使用する分岐点と合流しました。
11のピークを経て鋸山の山頂に到着、そして…
11時58分 鋸山
庚申山の山頂をスタートして、約3時間も掛かりました。
群馬県側から皇海山を登る場合、鋸山も登らないと展望ゼロのまま登山終了です。沼田市と看板にあることから、群馬県との県境のようです。
鋸山の正面に皇海山。
スタートから既に7時間30分が経過。鋸山から皇海山の往復はコースタイム2時間50分。更にそこから下山で5時間以上。
現在時刻は、ひとふたまるまる、正午、12時。
これは撤退するべきなのか…
鋸山の危険ルートで体力も精神も尽きかけだ。隊員全てが無言になり、登山地図を眺め、下山時間を計算する。
次は群馬県側から登れば、ルートが繋がるんだし…。
しかし、我々は余分な荷物を鋸山の山頂に預け、歩きだしていた…。
皇海山の死の行軍(デスマーチ)の開始である。
鋸山からの下山は誰も余裕がなく、写真が残っていなかった。
写真は別のところだが、雪渓が残り、急斜面、アイゼンなしの下山だった…。
鋸山を下山すると道は明瞭となって歩きやすくなった。
看板も多く見受けられ、メジャールートってこんな感じだよねと実感。また、別の登山客と初めてすれ違った…。
不動沢のコルに到着。
群馬県側のルートとの合流です。皇海山から下山してくる人と多数すれ違った。展望が地味ではあるが、さすが百名山だけあって、メジャーなんだなと初めて認識。
皇海山本体は残雪たっぷりでした。
ただ、踏み跡がしっかりあり、アイゼンの必要はありませんでした。
山頂まで0.7キロの表示。
細かく刻んだ表示があるのですが、そのせいで全然進んでいないように錯覚する。
もはや、隊員全員が惰性で足を動かしています…。
たまに足を取られる雪に苛立つも、悪態をつく元気すらなく、ただひたすらに上を目指します。
左右の樹林帯の幅が狭くなってきているので、何となく山頂に近づいているような感覚になってきました。
青銅の剣がありました。庚申山の入り口にあったものと同じ素材です。栃木県側から運ばれたものなのでしょうか。
足尾はかつて人口密度が都内を越える程、銅の採掘が盛んだったからか。
やがて、樹林に囲まれた静かな山頂が見えてきました。
果てしなく長い道のりの末、皇海山の頂へ
13時6分 皇海山
遂にやりました。
無事に辿り着けて嬉しいですが、下山が待っているという懸念から手放しに喜べない面々です。
それが集合写真に如実に表れているのが分かります。生気が感じられません。
皇海山でスイカを食べる!!!
渾身のギャクのために持ってきたのに誰も食べる気力が起きない。そして、微妙に風が強く、冷たいものを受け付けない状態。スイカがただの生ごみになってしまった…。
山頂では一番のお調子者でおなじみのゆうちゃんは、疲れ切っていて立ち上がろうともしませんでした。
左の標識が群馬県、右が栃木県が設置したものだろう。お互い別の方角を向いているあたり、相容れない国境の壁を感じるところがある。
展望はご覧の通りありません。
栃木百名山の12座です。
一日に栃木百名山を二つも登れるなんて嬉しいな(棒)
皇海山から一旦くだり、再び鋸山を登り返します。群馬県側から登っていたら、1時間弱で下山できるのに…。
14時17分 鋸山
鋸山に戻ってきました。鋸山直下は急斜面なので、虫の息です…。
来た道を引き返すという選択肢もあるのですが、あの危険な尾根道を選択する余裕はなく、六林班峠へと向かうのであった。
この選択は今思うと間違っていたのかもしれない。
初っ端から藪漕ぎが開始されます。
石楠花、松、隈笹が茂る中、感覚的にこれが道だろうなというところを歩きます。
足元には倒木や地面の窪みや木の根っこ等が無数に存在し、隈笹によってそれらが隠されているというトラップ地帯。
足を取られて1,2回ほどお尻から転びました。
前方を歩く隊員が「倒木―!!!」と合図を送る対策を取りながら進みます。
木に打ち付けられた目印と木に結び付けられているピンクテープが頼りです。ルートファインディング技術が必要です。
何度も本線から外れ「ここ道じゃなくね?」と何度か一進一退を繰り返しました。
樹林帯の日陰になっている場所は隈笹は生えていなく、道は明瞭でした。くまちゃんを先頭に進んでいますが、かなり神経をすり減らしながら歩いている様子でした。
ゴールデンウィーク明けで、まだこのルートを人があまり歩いていないということで、踏み跡が蓄積されていなかったのかもしれません。広い尾根道に出ると道が全く分からない…。
風が徐々に冷たく感じ始め、体力を奪い取っていきます。
15時43分 六林班峠
看板の文字が擦れて消えかかっていますが、辛うじて「庚申山荘」と詠むことが出来ます。1時間半以上続いた藪漕ぎゾーンがようやく終わるのかと安堵しました。
六林班峠から庚申山荘へは山の斜面に沿った道を歩く平行移動です。
2時間弱のコースタイムをガンガン巻いて行こうぜということで、気合のスイッチを入れなおします。
沢を横切るような道になっています。
何度も何度も何度も…。
前日は宇都宮市内のスーパーで大量に食材を買い込み
外は雨が降るコテージの中で、それらを大雑把に盛り付け
男だけで皇海山の壮行会として乾杯し
はち切れんばかりに肉を焼き
宇都宮名物の正嗣の餃子を焼いて、あんなに楽しい夜だったというのに…
疲労困憊・満身創痍の状態で繰り返される同じような道に苦しんでいる。
「俺たちなら全然いけるっしょ!!!」
過去の言葉が頭の中でイメージされる闇の底へとリフレインされていきます。何故こんなことになっているのだろうか…。
そんなさなかゆうちゃんが足を滑らせ、数メートル滑落する事態が発生。道が細く、崩れやすい岩砂利。怪我などはありませんでしたが、ヒヤリとする瞬間でした。
ここから隊員が徐々に壊れ始めていく。
「帰りたいよー!!お母さんー!!」
と、この場にはいないママに助けを求める者。
「山荘が見えてきたぞ」
と、前方を指すが、その方向には山荘など何もなく、幻覚を見る者。
「この山ムカつくから、う〇ちしてやる!!!」
と、可能な限りの悪態を山に付きはじめる者。
先頭を自分が交代しました。斜面をトラバース(横断)するエリアは過ぎ去りましたが、いまだに山荘は見えてきません。
足早に歩き続け、1時間半で着くだろうと想定したいのに、時間は無情に過ぎ去っていきます。
17時53分 庚申山荘
ようやく辿り着くことが出来ました…。
登山界隈では若手の自分たちが少し早歩きすれば2時間弱のコースタイムを1時間30分にすることは可能です。しかし、この区間のコースタイムは早足で歩く自分達を嘲笑うように、全く縮まりませんでした。
50歳の歩行速度が基準のコースタイムですが、かなりピンピンしてる人を雇ったんじゃないだろうか。
ここからは日没との戦いです。最も日が高い時期とは言え、ヘッドライトを使うことはしたくありません。山荘前で最後の休憩を行い、お山巡りコースの分岐点に戻ってきました。
11時間28分ぶりに。
朝日を浴びていた時間帯の場所で、日没を迎えようとしているという事実。「お山巡りコース行っちゃう?」というノリで、元気だった自分たちは影も形もない。
18時34分 庚申山登山口
日帰り入浴20時締切に何とか間に合うように狂気に身を委ねながら下山しました。途中、レッドシュガーが「(疲労で)膀胱を抑えることができねぇ、先に行ってくれ」という言葉は、本日のMVPワードだったと思います。
19時20分 国民宿舎かじか荘
ヘッドライトを使うか使わないかぐらいで林道を抜け、かじか荘に到着。温泉に入る時間を辛うじて確保することが出来た。ここで温泉を逃していたら、回復せずにその日中に帰れなかっただろう…。
露天風呂からは山並みが一望でき、とても良い温泉です。
入浴後は誰も無言となり、誰もレンタカーを運転したがらないので、かじか荘から運転を担当した。
車が走り出して間もなく、他の隊員は疲れのあまりに昏睡。高速に入ると車内が少し冷えてきたので、エアコンを暖房にした。足先が冷えてきたので、送風位置を足元に変更。
「!!!!????」
突然、車内が異臭に包まれる。
原因が分かった。助手席のレッドシュガーが、登山靴を脱ぎ、そこにエアコンの空気が当たっていたのでした。
……
14時間強も歩けばそうなってしまうのです。
23時前には何とか都内に帰ってくることが出来、レンタカーを返却。隊員はそれぞれの家に帰っていくのでした。
皇海山の登山を終えて
選択ミスによって過酷さを極めましたが、総合的に見ると面白いコースだったと言えます。
庚申山は林道歩きを除けば、清流や花や数々の史跡など見どころが多く、鋸山は危険ですが展望は抜群で、11峰縦走は達成感があります。皇海山の正式な登山道は栃木県にあり、最短ルートの群馬県側から登り、展望がないだけでマイナス評価するのは間違いです。
今回の反省点を踏まえて、庚申山荘に前泊もしくは後泊すれば、負担は激減できることですし。また、秋に入れば踏み跡が明瞭になるようです。
庚申山はコウシンソウと呼ばれる絶滅危惧種の花が咲くので再訪したいと思っていますし、皇海山は二度と登らないと思っていましたが、時間が経ったらまた登ってもいいかなと思うようになりました。
皇海山は自らの登山史において、多くな変化を与えてくれた山となりました。
皇海山の登山バッチ情報
別の日にわたらせ渓谷鉄道の通洞駅前にある観光案内センターで700円で購入しました。
案内所の人に訪ねるとロッカーから出して販売してくれます。他のバッチと比べると一回り小さいサイズなのに高い…。描かれてる花は一体何だろう?
国民宿舎かじか荘でも購入可能です。
コメント
後にも先にもこれより辛い登山が思い浮かびません。
庚申山荘に一向に到着しなくて叫び出すvelyblue氏、膀胱や直腸がハレーションを起こした僕やゆうちゃん
イベントづくしの皇海山でしたね、後半戦はvelyblue氏がいなければ心が折れていた気がします。
redsugarさん
きっと、4人いなきゃ絶対攻略できなかったと思っている。
最初は12時間くらいの予定だった気がするが、そもそもそんな長い時間歩く計画がおかしいと言えるな。
登山とは別にコテージ泊のようなイベントをやりたいものだ。
倒木ー!と一番叫んだのは僕だという自信があります。
それはそうと、銀山平のリンク先が新潟の銀山平になっていますよ。
>くまさん
鉄砲玉を担当していましたからね。
新潟の件はたぶん疲れていたんだと思う。
ご無沙汰しております veryblueさん。
僕は登山やり始めの頃にソロで庚申山に登りました。その時は皇海山の存在も知らず、家にあった栃木の名山から庚申山をピックアップしていきました。
結果、二度と行きたくない山になり登山をやめようと思うくらい怖い山でした。
平日登山の為誰にも会わず、熊でも出てきそうな雰囲気に終始登山を楽しめておりませんんでした。挙句、道迷いもしており脆い足場に引き返せなくなり孤独と遭難を感じました。そんな苦い思い出の山です。
>bambootakatomoさん
コメントありがとうございます。
登山始めたての頃に庚申山は少し楽しめないかもしれませんね。
長い林道歩きと岩山。
庚申山だけでもコースタイム長いですからね…。
しかし、ある程度様々な山を見てきてからこそ、今の自分が登れば面白く感じるかも知れませんね。
昔はアルプスなどのわかりやすい絶景に目が行ってばかりでしたが、庚申山のように歴史があって、人の暮らしに根付いているような山が好きになりました。
コウシンソウは見なければと思っています。
遅レスですみません。。栃木の隠れファンです
皇海山〜 皇海山やりましたね
ブログ読んでてハラハラしつつも、ブログ書いてるんだから無事帰ってきたのだろうなと複雑な気持ちで読ませていただきました。
32年前オラがボーイスカウトの地図読みで行った時は、あまりの悪路に途中引き返しました。それだけに自分のことのように嬉しい笑
ありがとうございました
>KabuPapaさん
コメントありがとうございます。
栃木にお住みなのですね。
宇都宮出身の自分としては、同じ県の人に読んで頂き、ありがたい限りです。
皇海山は本当に大変な山でした。
事前にインターネット上で見たレポートはスムーズに行程を終えていたので、自分達も簡単だろうと認識が甘かったです。
ボーイスカウトであの山に登るとは…。
またのコメントをお待ちしております。
はじめまして。
機会があり、初めて立ち寄らせていただきました。
記事は面白く写真は上手なので途中まで楽しく読みましたが、庚申山頂上で4人が三角点と思われる石柱を踏んでいる写真を見て、残念な気持ちになりました。
三角点を踏む行為については色々な意見がありますが、私は建てた先人に敬意を払うべきだと思うので失礼な行為だと考えます。
機会があれば、小説または映画の「劒岳 点の記」をご覧ください。
おそらく、私が申しあげたことをご理解いただけると思います。
大変面白かったです。渾身の力作ですが、山行も相当ヤバそうですね。ソロで行く予定です
コメントありがとうございます。
夏に行かれるんでしょうか…。水分多めでトライしてください。
もう、メインコースになっているので、自分の時よりは難易度が下がっていると思います。楽しんできてください!!