2018年1月13日
群馬県と新潟県に跨る谷川岳に行ってきました。標高は1977mです。
厳冬期(12月~2月)の谷川岳の積雪量は桁違いで、圧倒的な雪景色が見られます。しかし、冬の登山は天候と環境に大きく左右されます。とは言え、天神平スキー場から登るコースは、雪崩と滑落のリスクは極めて低く、行列ができるほどの定番の雪山登山コースになっています。
快晴に恵まれれば、東京から日帰りできるとは思えない程の息を呑む絶景、白銀の山脈を展望することができます。
冬山すべてに言えることですが、天候が良ければ天国、悪ければ地獄、ゼロかイチかの世界です。
自分にとって、冬の谷川岳は3回目(秋を含めると4回目)です。1回目は積雪量もそこまでなく山頂はガスガス、2回目はガスガスからの高曇りと振られ続けていました。3回目の今回は、移動性高気圧のお陰で快晴予報。
「これは行くしかない」と、冬の豪雪地帯の谷川岳を旅してきました。
冬の谷川岳について
地図
天神平スキー場から天神尾根をピストンするコースを歩きました。谷川岳ロープウェイ利用です。
コースタイム
- 9:08天神平スキー場
- 10:11熊穴沢ノ頭
- 11:51トマノ耳
- 12:13オキノ耳
- 14:18天神平スキー場
行動時間は5時間10分です。
谷川岳 雪山登山
水上の天神平スキー場からロープウェイで登山口へ
天神平スキー場がオープンする30分前を目指し、東京を発ちました。この時期の関越自動車道は下りが非常に渋滞するので、少し早めに出ないと不安です。
関越自動車道を走り、赤城高原を過ぎたあたりで真っ白な谷川連峰が見えてきました。
雪山は体を冷やしカロリーを消費するので、赤城高原SAでしっかりと食べておきます。群馬県名物の上州もつ煮定食を注文しました。
もつ煮は好物で、この赤城高原SAの定食は美味しいのですが、生臭さのあるもつ煮はちょっと朝の体には受け付けがたいものがあります。もつ煮は夜に食べるものです。
水上ICを降りると、朝日に照らされる谷川岳の姿が浮かんでいました。
天神平スキー場に到着しました。駐車料金は1日1000円掛かります。ちなみに今回はこのブログではお馴染みSaku兄と二人です。
彼とは2013年12月に冬の谷川岳に登っています。山頂はガスに覆われ、展望は冴えなかったけど、それ以外のことで楽しかった記憶しかない。
ロープウェイの乗車券に並ぶスキー客と登山者。
登山者が乗車券を購入するには、登山届の提出が義務付けられています
モンベルカードがあれば、往復乗車券が大人100円割引されるので忘れず提示しましょう。モンベルカードは年会費がかかるので、こういう施設でペイしないといけません。
谷川岳ロープウェイの運賃改定を下記の通り実施させていただくこととなりました。
1.改定日 2022年12月1日~
運賃改定のお知らせ(12月1日~)
2.運賃 大人往復3000円、小人往復1500円
星のリゾート参入により一気に値上がりしました…。
個人的にショックだったことがあります。
ロープウェイに続く廊下にかけれていた絵画が外されていたことです。芸大生の卒業作品として展示されていましたが、正気を失いそうな、精神を不安定にされる抽象画でした。展示期間が過ぎたのが、不評だったかは知る由もありませんが残念です。
その絵がこちらです。
ポップな看板に反して、鮮烈です。
眩いばかりの銀世界にて、天神平スキー場から谷川岳を目指す
天神平スキー場(9:08)
ロープウェイを降りると天神平スキー場。
裸眼では耐えられないほど、眩しい銀世界が広がっていました。ゲレンデでは、気持ち良さそうにスキーヤーが滑走していました。
登山者が向かう先には谷川岳の山頂がハッキリと見えています。冬の晴天率がどん底の谷川岳において、滅多にない快晴の一日です。
登山者はゲレンデの隅っこで準備を開始します。
Saku兄は雪山シーズンインに必ず12本爪アイゼンの装着方法を忘れるので、毎年講習をしています。新しく購入したと言うワカンを試行錯誤しながら装着していました。
「先行している人がたくさんいるし、トレースがしっかりついてるからワカンをつける必要はないと思うよ」と言うと。
「せっかく買ったんだから使うんだもん」と、新しいおもちゃを手に入れた子供のような回答が返ってきました。
ゲレンデにおいてははみ出し者の登山者は、ゲレンデの端にあるエリアからスタートします。
ゲレンデ横の登りが意外と曲者で、傾斜がキツイ上に、踏み抜く場所もチラホラあります。Saku兄はワカンをつけていて、登りにくそうでした。
ゲレンデから逸れるように登ると、広いスペースがあります。そこからの谷川岳は圧倒的な迫力の姿を見せてくれます。”魔の山“なんて通称が付けれているが、今日ばかりは浄化された”聖なる山“です。
谷川岳から谷を挟んで正面に白毛門が見えます。
谷川岳の絶景ビューとして人気があるようで、コースタイム3時間以上とタフな山らしいですが、機会が巡れば行ってみたいです。
ゲレンデから離れると樹林を抜ける林間コースに変化します。
林間コースは全体で一番積雪が多い場所かも知れません。降雪直後、先行登山者が少ない条件だとスノーシューやワカンが必要です。この日は全くの不要。
一部、歩幅分の道が確保された急斜面がありました。
ワカンをつけたSaku兄はオロオロしながら下っていました。
谷川岳はバックカントリーをする人も多く、歩きにくい靴とボードを担いでよく歩けるなと感心します。雪山に強いスキーヤーもここは板を外して歩いていました。
尾根道に出ると道幅は広く、フラットで快適に歩けます。
「もしかして社畜さんですか?」と、Saku兄は初めてブログ読者から声を掛けられてご満悦でした。同時に我々の想像以上の鈍足ぶりが露呈する結果となりました。
熊穴沢避難小屋(10:11)
熊穴沢避難小屋に到着しました。
小屋の煙突だけが突き出しています。小屋の埋まり具合で、谷川岳の積雪量の目安になっているとか。小屋は完全に雪の下なので、2m以上の積雪があるのか…。凄まじい雪の量だ、上越国境。
2013年の時のものですが、12月初旬ごろの避難小屋です。
どこまでも続く雪の坂道、行けども行けども辿り着かず
谷川岳の登山はここからが本番です。
熊穴沢避難小屋から山頂までは、天神尾根の急な登りがひたすら続きます。
丸みを帯びた稜線で、急峻な谷川岳のイメージと反して、稜線は広々してします。足跡の中心を歩けば、アイゼンだけで登れます。
Saku兄は絶対ワカンが必要だと言い張り、脱ごうとしません。
このあたりから森林限界を越えるので、展望がグンと広がります。尾瀬方面の至仏山(しぶつさん)と燧ヶ岳(ひうちがたけ)が見えてきました。
振り返ると遠くには富士山の頭だけが見えています。
こちらは仙ノ倉山に続く上越国境尾根です。
人間を寄せ付けないような氷河に削られたアルペン的な山容に惚れ惚れします。しかしながら、この地下に関越自動車道が通っていると思うと不思議な気分です。
たくさんの登山者が山頂を目指しています。
この日は100人はいないにしろ、70~80人くらいの登山者、スキーヤーがいたんじゃないでしょうか。
ワカンで道を切り開くSaku兄。典型的なガニ股で、ワカンだと非常に歩きにくそうにしています。しかし、頑なに脱ごうとはしない。
小屋から30分から40分経った頃、山頂に近づいている気がしない、雪山マジックに掛かりました。障害物や目印がない雪山では、陥りがちな現象です。
進行方向右側(群馬県側)は肩の広場と名がつけらているようで、バックカントリーの滑走斜面になっています。尾根道を歩く登山者が巻き込まれることは稀なようですが、雪崩が発生しやすいのもこのエリアらしいです。
天狗のたまり場(10:47)
天狗のたまり場に到着。
展望台になっており、上州武尊山、その奥に赤城山など群馬の山々を眺められます。
ザンゲ岩に到着。
天よ!!!
誰も後ろにいないと思って、開放的に放屁したら、女性が歩いていた罪をお許し下さい!!!
まだまだ山頂は遠いです。
絶景慣れして、少し雪山に飽きてくる時間帯です。
勢いよく柴犬に抜かされました。
犬は喜び庭駆け回ると言うが、雪山を駆け回る時代。人懐っこい犬なので、飼い主は他の登山者のアイゼンに気を付けながら登っていました。
涎が凍っているのが、チャームポイント。真っ裸、素足でよく耐えれるな~。軽快なステップを刻む柴犬。
ナメクジのような足取りの社畜。
人によってはサクサク登れる斜面ですが、シーズンに2~3回ほどしか登らない我々にとっては厳しい登りであります。
長い長い雪の坂道を登り切り、ようやく谷川岳肩ノ小屋が見えてきました。
避難小屋から1時間以上はずっと登り、いやー大変でした。
肩ノ小屋の正面は休憩スポットのため、山頂方面に向かわず移動します。ようやく、新潟県の県境を踏むことになります。
天気がいいので雪が溶けて、つららが出来ていました。
魅せられる上越国境、日本海がもたらす純白の世界
クリームに覆われたケーキのような白い山脈、群馬県と新潟県の県境の上越国境尾根です。稜線伝いに万太郎山~仙ノ倉山~平標山~三国峠へと続いています。
日本海の湿った空気がこの山脈にぶつかり雪を降らせるので、新潟県側は一面の雪景色が広がっています。
この風景をあえて例えるなら、砂場でミニチュアの谷川岳を作って、そこに雪が降ったかのような風景です。または、スポンジケーキを谷川岳の形に切って、生クリームを満遍なく塗りたくったような風景です。または、谷川岳の絵をかいて、白の絵の具で塗ったような風景です。
下手糞もいいところです。
風景を眺めてるばかりではなく、山頂へと向かいます。肩ノ小屋から第一の山頂であるトマノ耳まではすぐの距離です。
トマノ耳(11:51)
トマノ耳に到着。
天神平スキー場を出発して2時間40分。冬山時間ってあると思うんですよ。夏山換算で4時間くらい歩いた気分です。
谷川岳は双耳峰で、山頂が二つあります。谷川岳の山頂はトマノ耳より奥にあるオキノ耳です。トマノ耳より14m高い場所にあります。
3回目にして無修正の冬の谷川岳に来られて思わず歓喜です。
山頂まで来ると谷川岳の北西方面の展望が広がります。
新潟県の南魚沼市に属する山脈が広がり、平ヶ岳、巻機山、越後三山などがある山域です。標高2000mの比較的平らな山域なので、圧倒的な白さです。冬のアルプスでは見られませんね。
振り返ると東側の斜面は雪庇(せっぴ)が作られていました。奥の尾根道に登山者がポツンといるのがわかるでしょうか。冬の西黒尾根を登る雪山強者です。雪が無くても厳しい道のりなので、冬はエキスパートしか登れないルートです。
それでは、トマノ耳からオキノ耳を目指します。
二つの峰の稜線区間は、道幅が狭く登山者とのすれ違いと雪庇のある東側斜面に入り込まないように気を付けなければなりません。
雪面から頭を出している枝葉にえびのしっぽが作られていました。
振り返ると先ほどまでいたトマノ耳が見えます。
断崖絶壁になっている山頂は、誤って転げ落ちたらビル20階分の高さを落ちることになりそうです。それでもこの斜面にシュプールが描かれているので、命知らずのスキーヤーがいるもんなんですね。
冬の悪天候の確率を越えて、谷川岳山頂の風景
オキノ耳(12:13)
そして、谷川岳の山頂であるオキノ耳に到着しました。
看板に発生したえびのしっぽは、先行していた「えびのしっぽ削るおじさん」に剥ぎ取られていました。残念。
2013年12月に撮影された無慈悲なガスに包まれた”敗北者“の写真です。
その4年前の雪辱を晴らす象徴的な一枚に仕上がりました。
ただ、明らかに今の方が元気がない。2013年の頃は、自分は前日に山梨県の三つ峠山に登り、Saku兄は登山後に東京の合コンに参加。バイタリティーとメンタリティー溢れる時代でした。
服装が全くアップデートされていないのはご愛嬌。
オキノ耳より先はほぼ歩く人はいませんが、ちょっとだけ気になったので歩いてみました。
谷川岳よりさらに積雪の多い、巻機山や越後三山などの山々を良く見渡せました。風景的にはさほど変化がないので、特に歩を進める必要はないかと思います。
山頂でなんやかんや楽しんでいると、上空を雲が覆い始めました。西の方に雲が沸いてきているなと思った20分後には太陽の光がなくなりました…。
谷川岳の天気はあっという間に崩れます。
2015年に登った時(記事にはしていません)は、山頂で待っていると、雲がバーッと開けて感動的な風景がありました。こういうのも悪くないんですけど、一度は快晴下で歩きたいです。
再び小屋の前に戻ってきて、軽食の補給。
雲一つない快晴の雪山も良いのですが、雲が多少あると雪山に陰影が出来て、写真映えはしますね。
刻一刻と天候が崩れつつあるので、下山を開始します。往路が登り一辺倒だった分だけ、下山は楽ちんです。
天神尾根コースだとピッケルは完全にお守りでした。
林間コースあたりまで戻ってくると太陽の光はさえぎられて、薄っすらと粉雪が舞い始めました。冬の谷川岳の天気は、本当に変わりやすいです。
天神平スキー場(14:18)
天神平スキー場に戻ってきました。
5時間弱の登山でしたが、8時間以上歩いたような疲労感があります。やはり、寒さに体力が奪われてるんでしょう。
ロープウェイを降りて、レッドカーペットでウィニングランを決めるSaku兄。
ずーっと谷川岳のバッジを買っていなかったので、売店で購入。
水上温泉郷で自家製ドイツソーセージと大とろ牛乳を食す
水上はたくさんの温泉がありますが、Saku兄おススメの「鈴森の湯」に入りました。
ここでもウィニングランを決めるSaku兄。勝利の余韻を搾りカスまで、楽しむ男である。
温泉を出たころにお腹が減ってきました。水上は温泉郷でたくさんの飲食店が営業しています。
やってきたのはオシャレな外観の「育風堂精肉店」です。
精肉店とレストランが一体となっています。
メニューは自家製のハムやソーセージ、ドイツ料理のアイスバインなどがあります。ご飯メニューもありかつ丼などもあります。
注文したのはホットドッグです。下山した後にパンを食べるなんて初めてかも知れません…。巨大でジューシーなソーセージとプレッツエル風の硬いパンが非常に食べ応えありました。
ソーセージの盛り合わせも頼み、ご飯を食べずとも満腹になりました。内装的にいい年こいた男が二人で入る店ではないことは確かですが。
お肉の加工場があるので、ハムやソーセージなどのお土産が充実していました。
ソーセージを満喫した後、「大とろ牛乳」という新感覚のデザートがあるという噂を聞いて水上グルメ梯子です。
水上ICに近い場所にあるため、立ち寄りました。クリスマスシーズンになるとイルミネーションを頑張っちゃう近所の家のようにキラキラした店です。
基本はテイクアウトの店内はこじんまりとしています。大とろ牛乳(300円)にトッピングをプラスするオーダー。地元産のいちごをプラスしました。
ソフトクリームみたいな食感と味を想像していたら違いました。食感はソフトクリームというよりシェイクに近く、使用している牛乳が良いのか、甘さは控えめなのに濃厚な牛乳感がありました。谷川岳下山後の定番スイーツ入りです。
ご当地スイーツを食べながら、一日をやり切った野郎二人は東京へと帰るのでした。
冬の谷川岳の雪山登山を終えて
ラインを越える瞬間。
音楽が好きで、色んなアーティストの曲を聴いていて、楽器を始めようとする瞬間。アーティスの曲をカバーするうちに自分の曲を書いてみようと思う瞬間。ステージに立って人前で演奏しようとする瞬間。テレビに出ているアイドルを応援していたら、自分が育てたくなるような心境になり、地下アイドルを応援し始める瞬間とかとか。
そのラインを越えた人を見ると、「スゲー」と称賛したり、「ああ、なりたくない」と見下したり。
谷川岳は太平洋と日本海を分ける中央分水嶺であり、登山者の分水嶺的な存在だと思っています。歩き始めたばかりの初心者から登山家と呼べる上級者、それこそ犬までを包括して、絶景とか達成感とか高揚感といったものを提供してくれる山です。谷川岳の稜線に目には見えないラインが存在していて、谷川岳をいつどのように登るかで、向こう側に行く者、向こうには行かず満足する者、そんな分水嶺があると思います。不思議と登山者を惹きつける魅力が谷川岳にはあるのです。
さて、話を無理やりまとめると、冬の谷川岳は満足度100%です。
冬の谷川岳は晴れることは滅多なく、12月~2月の厳冬期では月に2回、3回程度でしょう。冬山すべてに言えることですが、前日の天気を見て、計画実行がマストです。都内に住んでいれば、平日に休みを取って行くことも十分可能です。直前で休みを取れない人は、労働環境から変えるしかありません。
天候の壁を乗り越えられさえすれば、ヨーロッパアルプスにもヒマラヤにも肩を並べる程の銀嶺の世界が待っています。
コメント
ラインを越える瞬間。なんか素敵な表現ですねー。グッと来ました。
谷川岳行きたいなあー。
>みっきーさん
越えちゃいけないラインを越えなければ、たくさんのラインを越えたり、ラインの前で立って見送るのが人生ですね。
夏の谷川岳が未経験なので来年か再来年に行きたいです。
お元気でしたか?
冬の谷川岳きれいですね。
数年前の大山を思い出しました。
越えてはいけない一線を越えてしまった。
そんなveryblueさんのお言葉、胸にしみました。
>やま子さん
コメントありがとうございます。
残念ながらあまり元気ではなく、正月は高熱を出して寝ていました。
数年前の大山も衝撃的な風景でした。海が近い分だけ、高度感は大山の方がありますね。
登山仲間でもそこまで行っちまうのかって人が多いので、自分はまだ未熟者です。
これからもよろしくお願いします。