2015年11月1日
富山県の北アルプスの立山に行ってきました。標高は雄山の3003mです。
積雪(雪山)の立山を登る場合、一般登山者レベルでは立山黒部アルペンルートが営業している期間に限られます。10月の降雪から閉山する11月下旬、またはゴールデンウィーク前後と、立山の雪山シーズンは短いです。
雪山に初めて登ったのが2011年の12月で、「そういえば、一人で雪山登山をしたことがない。」と、ふと思ったのです。だったら、雪山に一人で、どうせ行くなら標高の高いところ、一年でも最も早く雪山になる山、それを探ったところ、立山に焦点が当たりました。
「初めてのお使い」ならぬ「初めての一人雪山登山」で、初冬の北アルプスを旅してきました。
立山について
地図
室堂~雄山を往復しています。
立山 雪山登山
夜行バスで富山駅、富山地方鉄道で立山黒部アルペンルート
新宿駅で富山駅まで行く夜行バスに乗り込みます。
新宿駅バスターミナル「バスタ」開業前なので、既に賞味期限切れの内容であることは否めない。
5時45分ごろにJR富山駅に到着。
山の稜線上では富山県に足を踏み入れているが、純粋に富山県、その駅前に来るのはこれが初めてでした。登山者あるあるです。
JRに用はなく、電鉄富山駅に移動する。
立山黒部アルペンルートと接続する立山駅を目指すことになる。
富山駅から立山駅までは1200円。
調べたら2021年現在は1230円になっていた。新宿駅換算で中央線で山梨県の大月の手前くらいまでの値段がする。
日曜日の早朝だが人気がまるでないホーム。東京だと登山者がわらわらいる時間だが、富山県民はふらっと立山に行かないのだろうか…。
地方の鉄道に乗るのは旅情があっていい。見た目もクラシックな車両だ。
乗客はほとんどおらず、たまに学生が乗り降りする。何もない田舎駅で乗り込み、何もない田舎駅で降りていく。そんな日常風景が新鮮です。
車窓からは立山連峰が見え、6時40分を過ぎると太陽が見え始めた。標高3000mの壁は、日の出の時間まで遅らせるようでした。
田園風景を抜けると次第に山に入っていきました。紅葉が綺麗で、同じ時期に下ノ廊下を歩いたことを思い出す。
終点でもある立山駅に到着する。電車はクラシックだが駅舎は立派です。
立山黒部アルペンルートに乗り、銀世界の室堂高原
立山黒部アルペンルートの立山駅に到着する。ここを訪れるのも初めてです。観光地でごった返しているイメージだが、11月に入るとさすがに観光する人も限られるのだろうか。
館山駅から室堂の切符を購入。片道は2430円だった。
夜行バス、富山地方鉄道、立山黒部アルペンルートで片道交通費は8000〜9000円です。東京から室堂に行くには最安ではないだろうか(たぶん)。
モニタには室堂の映像が映されていて、雲ひとつない空、そして銀世界を映していました。
まずはケーブルカーに乗り込んで、美女平を目指す。紛争地帯の兵隊みたいなザックを背負った登山者がいて、日帰りで最低限の荷物で来た自分は震え上がった。
美女平でバスに乗り換える。
立山は国際的な観光地と化しているようで、この日は外国人のほうが多かった気がする。垂れ幕の右下のうにゃうにゃした文字はどこの国の言語?
アナウンスがありバスへ。
巨大ザックの彼の後ろを歩いていれば、突然、武装勢力が襲ってきても守ってもらえそうな気がする。
美女平から室堂まではバス。たくさん乗り換えが発生する長野県側の扇沢より断然楽だ…。昨日、雪が降ったようで新雪が積もっている。
これは絶好の雪山日和である。標高2000mを超える山々は完全に白く雪で染まっていました。
ここで失敗した点が一つ。進行方向右側の席に座ったのだが見どころが圧倒的に少ない。進行方向左手側の座席の方が、落差日本一の称名滝や立山連峰がよく見える。注意したい。
手前の稜線の向こうに突き出した山を見ることができる。劔岳だ。
魔王の城がありそうな厳つい見た目の剱岳。一般ハイカーの自分では、冬に登ることはまず無理だろうな…。ちなみに室堂からは剱岳は絶妙に見えない。雄山に登ってようやく見える。
室堂ターミナルに到着。
標高2450mとは思えない施設の充実感。栃木県の男体山の標高より高い場所なんだぜここ。
富山駅では食事処が開店前だったので食べれず。室堂の蕎麦屋で朝ごはん。「立山」と書かれた蒲鉾がのっかった天そばを食べました。
室堂ターミナルを出ると、突き刺すような寒さの銀世界
ターミナルを一歩出ると、そこは標高2450mの雪山の世界。富山駅前のじわじわくる寒さと違って、肌にビシッと痛みが走る寒さです。
それでも、太陽のパワーは強く、ネルシャツ一枚でも十分に耐えられる。
立山玉殿の水はちろちろと流れていて、凍りついていませんでした。ここで、飲水を補給。
室堂から雄山までのルートは、「真っすぐ歩いて、小屋に突き当ったら、左に曲がる」と、非常にシンプルなものです。最初からゴールが見えている。
この日は雪山初期装備でも登れるコンディションでした。
まずは、一の越山荘を目指して歩く。前日はかなり雪がふぶいていたのかロープに氷がへばりついていた。
雪はそこまで深くないのでスノーシューもワカンも必要なかった。
日本三霊山(富士山、立山、白山)の一角だけあり、室堂一帯にはたくさんの祠などの史跡がある。
一の越山荘までは緩やかな傾斜を歩いていく、新雪なのでアイゼンは付けずに登れました。
山荘に宿泊していたと思われる韓国人ぽい20代の男女4が、スノーブーツで登ってこれるくらいイージーだった。
室堂を出発して50分程度、夜行バスの寝不足で、多少息は切れたものの、難なく一の越山荘に到着。ここで、風が多少強く感じる。
一の越山荘からは北アルプスの大展望、果ては富士山が見える
立山連峰で隠されていた、北アルプス南部の風景が見られるようになる。
そんな北アルプスの絶景より、富士山を見つけられたのが嬉しかった。日本海側の立山から太平洋側の富士山、直線距離で300キロくらい離れているので、空気の澄んだ季節じゃないとなかなか見れない。
ここで、アイゼン装着に迷う。
稜線上は地面が露出していそうで、返ってアイゼンを履いていると危険そうに見えた。後続でやってきた夫婦が、アイゼンを装着し始めたので、それに倣うことにしました。
一の越山荘から雄山までは結構な傾斜があります。
この日の斜面は、やはり露出が多く、12本爪アイゼンだと登りにくく、チェーンスパイクくらいでちょうどよかったかも。
上まで登ってくると日本海の方から強風が吹いていました。
真っ白に冠雪した室堂高原、富山まで苦労してきた甲斐があったと思わせる風景です。
雄山神社が間近に見えてきました。
夏場に登ったときは浮石が結構あって、往来激しいのに結構危ないなと思っていたけど、雪のある時期の方が楽に登れます。
雄山とは逆の西側には浄土山が見えます。ここまで来ると視界もよくなり、彼方には石川県の白山連峰が見えていました。
標高3003mの雄山神社、雪が覆い尽くす神聖な世界
11時30分 立山(雄山)の雄山神社に到着。
9時20分頃に室堂ターミナルを出発したので、山頂まで2時間10分かかりました。
当然ながら、冬の雄山神社は閉鎖されています。
「社畜魂Tシャツ」を着た同行者と登り、富山県民の山ガールに「社畜なんですか?お仕事頑張ってください。」と励ましの声(?)をかけられ、心温まる思い出の場所です。
頂上は雄山神社より更に一段登った場所にあります。進行方向右手側はどこまでも転がり落ちていくような斜面です。
鳥居をくぐり階段を登る。最後の最後だけ、ちょっと怖かったかも。夏から秋の開山中は通行料を払い、宮司さんにお祓いを受けることができます。
標高3003mの立山連峰の雄山に到着。
11月に標高3000mを越える山に登ったのは初めて。思えば遠くへ来たもんだ…。ちなみに最高峰は大汝山の標高3015mだが、一般的には雄山が山頂扱いされている。
言わずもがなだが、11月のクリアな空気の中で見る、標高3000mの景色は素晴らしい。巨大な北アルプスの山脈を見渡せ、はるか遠くには富士山が見える。
難攻不落の要塞のような威容は剱岳。立山三山の一角である別山の稜線が一部を隠してしまっている。
一際、積雪量の多い山々は白馬岳だろうか…。
南には北アルプスのシンボルである槍ヶ岳、その奥は穂高連峰が見えます。
西には白山連峰が見えます。こちらも積雪があり、山頂一帯が白くなっています。
東の方には特徴的な丸みのある浅間山が見えました。
雄山頂上から見下ろす室堂は圧巻。
富山市内と富山湾の海岸線が見えます。関東地方出身の自分としては、これが11月、しかも1日の景色と言うのが信じられません。
今頃、雨晴海岸などでは冠雪の立山連峰を撮影しているアマチュアカメラマンがいるのだろうか。
登山者は全体で20人〜30人くらいはいたと思いますが、ほとんどこの場所まで上がってこないので、静かに参拝していました。無事に帰れますように。
正面は全く凍りついていませんでしたが、裏側はエビの尻尾が作られていました。誰か払ってくれたのかな。
お腹へってきたので、コンビニで買った黒とろろのおにぎりを食べます。富山県の名産でしょうか。
突然襲いかかる悪寒に怯え、雄山頂上から下山する
5年以上経った今でも憶えているのですが、一人でテンション高めにクリスマス用の写真を撮っていたら、ふと強烈な悪寒が襲われました。
「ここにいちゃいけない、早く家に帰りたい」
森の中を歩いていたら背中に虫が落ちてきて這いずり回っているくらいの感覚です。一目散にこの山頂を離れたい。三脚やちらかしていたストックを回収し、すぐに下山の準備を開始。
数組ほど登山者がいたが、いつの間にか誰もいなくなっていた。
心模様とリンクしているように西の空から高い雲が広がり空模様が悪くなります。自分を守る武器のようにピッケルを取り出して、急斜面を下山し始めました。
一の越山荘を通過、ここでピッケルもアイゼンも邪魔になると思い、外しました。
山頂から1時間10分ほどで下山しました。
下山中は山荘の写真を一枚撮ったきりで、いかに山頂から遠ざかりたかったかがわかる。未だにあの悪寒の正体はわからないが、もう一人で雪山に出かけようとは思わなくなりました。
肉体的にも精神的にも冷え切ってしまったので、みくりが池温泉へと向かいます。室堂からみくりが池温泉に向かう道が、カチコチで登山道よりむしろ危険でした。
みくりが池温泉に反射する立山連峰は、定番の一枚。
雷鳥がいるみたいで観光客が騒いでいたけど、そんなことより体を温めたいとスルー。未だ見たことない冬毛の雷鳥を無視するくらい怯えていたのです。
雄山から下山し、日本最高所のみくりが池温泉で暖まる
みくりが池温泉に到着です。標高2410m「日本最高所の温泉宿」として有名です。立山〜剱岳の縦走の時にもお世話になった温泉です。
登山をしていると出会いがちなこの「日本秘湯を守る会」の提灯。
雲上の温泉は山小屋とは思えないくらい立派。シャンプーも使えるので、ありがたい存在です。富山市内にも入れる入浴施設はあると思うが、ここで入った方が楽。
施設のレベルは外界と変わらないし、ご飯も美味しそうなのでいつか泊まってみたい。この日は日曜日だったのでガラガラでしたが、もう少し雪が積もると山スキーの人で宿泊客が増えるのだろうか。
温泉で体はポカポカになり、喫茶スペースでレモンスカッシュを注文。外はマイナス気温の標高2400m、氷で冷えたドリンクはとても贅沢です。
外に出ると曇天模様。汗をかかないよう、転ばないように、ゆっくりと室堂ターミナルを目指します。
室堂ターミナルに到着。ようやく安心できたのか、どっと疲労が溢れ出てきました。
室堂ターミナルに戻ってきたら、再びバスとケーブルカーを乗り継ぎ、立山駅へ。帰りのバスは爆睡でした。
ケーブルカー立山駅では職員がお見送りしてくれました。今度来るときは「雪の大谷」が見れる時期か、雪解け直後の夏頃に来たい。
富山地方鉄道に乗り換えます。行きよりは混んでました。それにしても、中国人、韓国人のアジア系の旅行者が多い。
富山駅のグルメ、富山湾の白えびとブラックラーメンを食べる
富山駅に戻ってきた頃には18時半頃になっていました。このまま新幹線に乗れば、22時頃には東京の自宅に帰れますが、帰りもまた夜行バス。
富山駅前で時間を潰さなければいけません。
富山駅の「きときと市場とやマルシェ」で、交通費を浮かせた分だけ、豪華ディナーです。「きときと」は富山弁で「新鮮」という意味だそうです。
富山といえば富山湾の白えびが名産で、「白えび亭」には以前から行きたかったお店でした。
一番人気は比較的リーズナブルな「白えび天丼」で、そこに白えびの刺し身がついた定食を注文しました。1980円くらいだったかな。ホタルイカの沖漬けも注文してしまった。
富山県人はこんな美味しいものを毎日食べているのか…。
白えびはプリッとしているというより、ぐにゅっとした食感で甘みが強い。刺し身は特に美味しかったです。ビールを飲みながら、ホタルイカの沖漬け、もう昇天です。
まだ、富山県の胃袋の旅は終わらない。白えび亭の近くにあるラーメン店「西町大喜」にやってきた。
富山ブラックラーメンをご存知だろうか。
スープの醤油の黒が濃いことで、そのような名称が付けられている。そして、見た目通りに塩っ辛い。各種レビューを見ると賛否はわかるが、富山の食文化の一つとして食べておきたかった。
醤油の味が強すぎて、完飲は不可。
戦時中に徴兵を逃れるため、醤油を飲む人がいたと教わったが、このスープを飲んでもそれが可能じゃないだろうか…。肉体労働者のための食事と言われているが、立山下山直後だと美味しく感じた…かもしれない…。
衝撃的なブラックラーメン体験を経て、海で溺れた口になってしまったので、ソフトクリームで中和した。富山湾の深層塩ソフトなので、蓄積塩分はヤバいことになっている。
富山駅のグルメ縦走を終えて、駅前で夜行バスを待たなければならず、寒空の駅前をさまよった。ギリギリまで駅前のスタバに避難したが、21時頃に終了。駅構内は風通しが良い場所しかなく、ケチらずに新幹線で帰れば良かったと絶望した。
月曜日の夜も開けぬ新宿駅は、始発を待つ人達で溢れていた。
一旦自宅へと戻り、シャワーを浴びて、出社をした。日中はずっと頭が回っておらず、0泊2日の雪山登山なんてするもんじゃないなと思いました。
往復交通費は2万円以下だったけど、食事と温泉、お土産で7000円以上は使っているので、一日過ごすのには大きい金額になったな…。
立山の雪山登山を終えて
この冬の立山登山は、個人的にターニングポイントになった登山でした。
雄山の山頂で感じた強烈な悪寒は、寒さから来るものでは決してなく、何か超常的で霊的な現象を疑ってしまう出来事でした。山が拒絶していたのか、警告を発したのはわかりません。あのまま山頂に一人留まっていたら、突風でも吹いて、滑落して死んでいたんじゃないかと、年数が経った今でも思い返します。
少し怖い体験こそありましたが、子供の頃に自転車の乗って、隣の町まで行った時のような「世界が広がった感覚」は味わえました。
この登山以来、一人で雪山に行ってないんですがね。
この日は雪山登山に最良の条件でした。晴天に恵まれたこと、積雪量もさほどで新雪、山頂以外は微風。ハーフパンツの生足むき出し、ザック無しの長靴で登ってきた白ひげ生やしたおじいちゃんが登っていたくらいです。たぶん、玄人が行き過ぎた登山者か、立山に棲まう妖怪だろう。
北アルプスのパノラマ、白山連峰、日本海、そして果ては富士山まで。麓で紅葉が始まる11月、標高3000mの雪景色は素晴らしい体験になりました。
立山三山の縦走記事
この登山の1年前に実行した立山三山の縦走記事です。併せてご覧ください。
コメント
はじめまして。今月から初めて登山を始める予定の者です。登山ブログ、とても参考になります。
私は富山の人間なのですが、立山(雄山)は昔はとても厳しい宗教の聖地でした。今でもその信仰は脈々と受け継がれています。我が家には雄山神社の御札を神棚に祀っていますし。なので、立山信仰の聖地であるその場所に異教徒の宗教イベントを持ち込んだのは良くなかったのかもしれませんね・・・。
私はまだ雄山登山をしたことがないので、叶うなら今年の夏には登ってみたいと思います。そのときには山頂で宮司さんのご祈祷をいただきたいと思います。
またぜひ富山に来てくださいね!
たかまなさん
コメントありがとうございます。
おお、登山を始められるのですね。しかも、富山在住とは、登山に恵まれた環境。羨ましいです。
立山信仰って今でも根付いているんですね。関東から行くと、やはりそういう歴史的な背景をわからないままだったりするのでありがたいです。
確かに一人、異教徒のクリスマス飾りを持って行ったのはアレでしたね。前回、使ってたのが奥底にあった、室堂について存在に気がつきました…。
立山は標高こそあり、雄山は急斜面ですが、じわじわ登れば、ぜひ登ってみてください‼︎
ちなみに、今年の4月にも立山に登っています。日帰りは大変なので、やっぱり泊まって過ごしたいです。シーズンのホタルイカを食べる余裕もありませんでした。
また、行きます。