2014年10月18日
新潟県と群馬県の県境にある平ヶ岳に行ってきました。標高は2141mです。
登山界には日本百名山という一つの指標の山があります。その山の中で、日帰り登山最難関とされている山です。
登山道が基本的には一つしかなく、標準コースタイムは往復12時間30分を要します。自然保護のため、山小屋と避難小屋と言った宿泊施設はなく、幕営も禁止されています。
日帰り最難関の百名山?コースタイム12時間?
「高ければ高い壁の方が登った時気持ちいいもんな」という気概はなく、秘境にあってコースタイムが長い山ってどんなのだろうという単純な興味の元に平ヶ岳に登った記録です。
疲労困憊の登山になりましたが、山頂に広がる高層湿原、名物の玉子石、そして想定外の紅葉が待ってくれていました。
晩秋の上信越の秘境、苦労の果てに報われる旅になりました。
平ヶ岳について
地図
平ヶ岳の登山コースは、2つしかありません。
- 鷹ノ巣登山口の往復コース
- 通称「皇太子ルート」と呼ばれる短縮コース
鷹ノ巣登山口の往復コースは、標準コースタイム12時間30分と過酷です。
一方で、「皇太子ルート」は、往復6時間~7時間と短縮できます。しかし、銀座平の宿に前泊し、送迎してもらう必要があります。
コースタイム
- 5:58鷹ノ巣登山口
- 8:42下台倉山
- 10:39白沢清水
- 12:17池ノ岳
- 12:49平ヶ岳山頂
- 13:47玉子石
- 14:34池ノ岳
- 16:45下台倉山
- 19:00鷹ノ巣登山口
平ヶ岳 日帰り登山
登山口までたどり着くのも果てしなく、鷹ノ巣登山口へ
本日のメンバはおなじみのSaku氏とこの秋に登場頻度が多いラブピンクさんの3人です。
10月の3週目は新潟1泊2日の旅と称し、1日目に平ヶ岳、2日目に八海山を登りました。
平ヶ岳(超ロングコース)と八海山(超険しいコース)の2つの山は、人を選ぶため、4人目の出現はありませんでした。
都内を日付が変わった後に出発し、関越道で新潟に向かいます。
小出ICを降り、国道352号に乗り奥只見方面に向かいます。
越後駒ヶ岳以来となる奥只見シルバーラインのスペーストンネルっぷりが男子心を掴む。
奥只見湖に沿って走る国道352号線は、細いカーブの連続で運転が非常に大変そうでした。
下道1時間半を経て、ようやく鷹ノ巣登山口に到着。
都内を出て5時間強掛かるため、登山口に到着するだけでも大冒険です。新潟県と福島県の県境上の奥只見というエリア自体が日本の秘境中の秘境です。
日本百名山の一角ということもあり、駐車場のキャパシティはあります。駐車場にトイレはありますが、その他買い物できる施設は皆無です。
インターを降りてすぐのコンビニ等で物資を買わないとサバイバル登山になるので注意。
こんな最果ての場所でも路線バスは通っているようです。
福島県方面に進んでいくと桧枝岐村があり、燧ヶ岳や尾瀬の登山口があります。
路線バスで平ヶ岳に登っている記録を見たことがないのですが、利用者はいるんでしょうか。
鷹ノ巣登山口に到着、圧倒される下台倉山の紅葉
平ヶ岳登山開始
しかし、歩いて数分のところでコンタクトが外れるというハプニングがあり、20分ほど遅延を招き、実質6時20分にスタート。
序盤は背の高い樹林帯を歩きます。
10分少々歩くと手書きの看板が設置されている場所から登りが始まります。
達筆風にマーカーで書いているところを想像すると微笑ましい。
すぐ尾根に出るらしいので期待しながら歩く。
奥の看板に書いてあった山頂まで10.5キロという表示は目にしなかったことにする。
徐々に低木になってきて、展望が良くなっていきそうな雰囲気が出てきました。
新潟か福島かよくわからない山からの御来光です。
徐々に明るみになる山肌。
気のせいか山全体が真っ赤に染まっている気がする。
10月3週目土日の天気は完璧な秋晴れとなり、今日の長い一日に相応しい天気を用意してくれました。
平ヶ岳の「平」からくる印象は名ばかりで、急な登りが続きます。
駐車場の標高は840m、山頂の標高は2141mあり、標高差は1301mもあります。
先週登った男体山より標高差があるってどういうことですかねェ。
双耳が特徴的な山が見えてきます。
尾瀬の名峰である燧ヶ岳です。先週の武尊山、男体山、そして平ヶ岳と燧ヶ岳を囲むように登っています。
燧ヶ岳とは因縁めいたものを感じます。過去に同じ尾瀬に属する至仏山、会津駒ヶ岳からも燧ヶ岳を眺めています。
燧ヶ岳をアップしてみると前日に降雪したらしく、山頂付近が白くなっていました。
紅葉がものすごいんですけど。
平ヶ岳は高層湿原が見どころの山だと思っていたので、紅葉する山という認識が全く無かったので、圧倒的な紅葉に驚きました。
赤一色。
栗駒山と那須岳も赤がメインの紅葉の山でしたが、密度の面でいうとこちらの方が上です。
ロープが設置されていましたが、登りにおいては必要はありませんでした。
太陽の光が当たりだすと紅葉の彩りが際立ちます。
痩せ尾根が徐々に開始され、道幅の狭い岩の上を歩きます。
道幅1mもない痩せ尾根が続きます。
足を滑らせたら、怪我はしそうなので慎重に。
竜の背を歩いているような細い尾根道がずっと続いています。
これが歩いても歩いても進んでいる気がしないという…。
平ヶ岳はずっと先に控えている山ですが、この紅葉だけ見て帰ったとしても申し分ない充足感がある。
燧ヶ岳は尾瀬から見ると三つの峰があるように見えますが、平ヶ岳方面からは筑波山のように整った双耳峰に見えるのが面白い。
開始1時間未満でこれとは…キラーチューンな山です。
凄いところを歩いているな。
これを撮影するSaku氏は…
結構遠くから狙っている。
「おいおい、なんだこの冗談のような紅葉は」
栗駒山や那須岳のような鮮明な赤に対して、くすんだ感じの赤色です。
前者はナナカマドの締める割合によるものかな。
平ヶ岳の前衛峰で下台倉山が見えてきました。
紅葉の山として単独で登っても楽しめるが、いかんせん交通の便が悪すぎることから、平ヶ岳に登らなくちゃという精神が生まれてしまうわけで…。
一度に樹林帯に下ってから、登り返します。
紅葉の名峰として台倉山を名に連ねてもいいと思えるぐらいに凄まじかった。いかんせん、名前が地味だが。
8時42分 下台倉山
登山口を出発して、2時間20分ほど掛かりました。思わぬ絶景に足を取られつつもコースタイム通りでした。
鷹ノ巣登山口~姫ノ池
下台倉山からは燧ヶ岳を正面に見ながら、平坦な道が続きます。
おにぎり担当のラブピンクさんによる朝食のおにぎりで平ヶ岳に向けてのエネルギーを蓄えます。
下台倉山から台倉山までは片側が開けた尾根道です。
平ヶ岳より北部は越後の山々。
クジラのようなシルエットの山は明日登る八海山かな?
台倉山からの道は全く記憶に残っていないくらい退屈な道でした。樹林帯かつほぼ平行移動、睡眠不足により意識を朦朧とさせながら歩いていました。
樹林の隙間から高山帯の雰囲気が漂う平ヶ岳の山頂が見えてきました。
と、同時に感じる絶望的な距離感。
10時39分 白沢清水
樹林帯の中にポツンと看板が設置してありました。
「5時間以上かけてきて、何でこんな樹林帯歩かなきゃいけないんだよ」
と、いつものように弱音を吐きまくる男衆に対し、ラブピンクさんによるカラオケやらあの手この手で眠気を飛ばしてもらいます。
ラブピンクさんは長ズボンが暑かったようで、上着のフリースをスカート代わりに巻いてました。
登山道のど真ん中で着替えるワイルドさ。
白沢清水を越えると登りが始まり、森林限界を越えます。
熊笹の開放感あふれる登山道は上信越の山らしい登山道です。
登るにつれてうっすらと雪が積もっていました。燧ヶ岳同様に平ヶ岳でも前日に冠雪したようです。
長い、長い道のりでした。
最後のコメツガが鬱蒼と茂る場所を抜けると…。
12時17分 池ノ岳
景色が一変。
草紅葉と池塘の高層湿原の世界が広がります。
池ノ岳の姫池は標高2000m付近に位置しています。
平ヶ岳は中央分水嶺になっており、平ヶ岳に降った雨水は、日本海と太平洋のそれぞれに流れます。
雨の降った地点によって、水が辿る物語が変わってくる。分水嶺はロマンだ。
前日は雪の降る気温だったため、12時を過ぎても池の表面が凍っていました。
山頂高層湿原~玉子石
6時間も登りに掛かり大変でしたが、報われる風景です。
ただ、山頂はここではないので、もうひと山登らないといけません。
樹林帯には雪が3~4センチほど積もっていました。
平ヶ岳は7月の頭に山開きをして、11月には根雪が積もるため、登れる期間が4カ月しかありません。
雪が微妙に溶けて、泥が嫌らしかった。
平ヶ岳方面はまた高層湿原の木道に変わり、燧ヶ岳を再び眺められるようになりました。
燧ヶ岳から見た平ヶ岳はきっとわかりにくいんだろうな…。
湿原をのぞいてみるとちっこい苔が蒸していました。
木道を進んでいくと分岐点に到着です。
正面は積雪量を測るポールが立っているだけの場所です。山頂は右を進みます。
分岐から右へ曲がること20mほど。
12時49分 平ヶ岳山頂
樹林帯に囲まれた展望なしの地味な山頂があった。
山頂だけ樹林帯の山という逆転現象が起きている山は意外とある。自分の知る限りだと大菩薩嶺、苗場山、会津駒ヶ岳、八幡平、恵那山など。
地味な山頂ではあるが、スルーはせずやることだけはやっておく。
こういう山頂は広角レンズの威力が発揮される場所です。
姫を持て囃す感じで。
山頂は群馬県でもありますが、新潟から進入しているので、群馬の山という意識は薄い。利根川の源流の山ということで地理的には重要ですが。
タイムリミット(日没)の危機感を徐々に感じ始めてきたので、山頂を足早に去ります。
山頂手前の湿原からの眺めは抜群で、尾瀬から福島県と栃木県の山々を望むことができます。
平ヶ岳のシンボル的な存在である「玉子石」がある場所を目指します。
多少の上り下りがありますが、山頂は平です。よく考えたら上越国境の山(三国山脈)の一つであるので、この呼び名は正しい。登山道の途中までは平ヶ岳ではありませんから。
山頂から玉子石に向かう道は沢が流れていました。
晩秋だというに標高2000mを流れる沢に感動を覚えます。日陰は木道に雪が固まっていて、滑りやすく慎重に歩きました。
これだけ広く、水場もある山頂なので小屋の一つでも…と思うのですが、人工物がない山頂というのが平ヶ岳の魅力なのかも知れません。
13時47分 玉子石
平ヶ岳を象徴する景色です。
風化して、崩壊の危険があるから触らないで下さいという看板がありました。豪雪地帯の過酷な環境に耐えているんですね。
本日はおにぎり係ラブピンクさんのお手製ハロウィンおむすびです。
山頂に高層湿原が広がっている山は、苗場山や会津駒ヶ岳などもあります。
高層湿原に玉子石というインパクトあるオブジェによって、平ヶ岳のアイデンティティが確立されているといってもいい。
平ヶ岳下山~宿泊
山頂に時間をかけ過ぎて、さらなるタイムリミットへの危機感を覚え始めたので、下山を開始します。
冒頭で日帰り最難関と言いましたが、山頂まで最も時間のかかる山は北アルプスの水晶岳です。往復時間は20時間に及ぶのだとか。
しかし、北アルプスは山小屋が充実しているので、日帰りする必要はないというのが決定的な違いです。
姫ノ池に戻ってきました。
ぐるっと山頂を回っている間に、氷は解け、風に揺れ波打っていました。
さて、これまた気の遠くなるような長い下山の開始。
登り返しがないというのが救い。
まぁ、早く降りようとしろと。
この日、すれ違った登山者は単独が4~5人、ペアや3人組が4~5組と全体で15人前後しか登っていなかったんじゃないでしょうか。紅葉シーズン真っ只中というのに…。
中間地点のイタズラに長い樹林帯は、歩いていても眠気でぶっ倒れそうでした。
ラブピンクさん考案の「山縛りしりとり」で難を逃れました。最初は山の名前やトラバース、アイゼンなどの山関連だったのに、「そこに山があるから」とかセリフにまで発展していて、ルールは崩壊し無法地帯となっていました。
16時45分ごろに下台倉山に戻ってきて、そこからはヤセ尾根の斜面を下り始めました。
夕陽が山の斜面に隠れる前に一瞬見せた色合いは忘れられない紅葉でした。
18時頃に完全に日没となり、ヘッドライトを装着。
ヤセ尾根に神経をすり減らし、ロープが掛かっている場所に苦戦し、人工の明かりなどまるでない、深い闇の中での下山になってしまいました。
しかし、我々を支えてくれたのは、見渡す限りの満天の星空と愉快な明かりを灯すジャックオーランタンでした。100円ショップで買ったものですが、ここまで役に立つ機会が来るとは…。
19時ちょっと前、無事駐車場に辿りつくことができました。
下山してからも宿まで結構距離があり、運転するSaku氏は限界を5,6回は迎えていました。後部座席のラブピンクさんは、ダウンを纏いながら体の芯から冷え切り、生まれたての小鹿のように震えていました。
満身創痍の状態で到着したのが、魚沼市大湯温泉旅館「銀泉荘」です。
目に見えてギリギリの状態だった自分たちを見かねた宿の女将さんが、塩むすび作ってくれました。
「ありがてぇ、ありがてぇ」
本場魚沼産の新米で美味しいのは当然なのでしょうが、それ以上を遥かに越える気遣いというスパイスで旨みは段違いでした。
汗まみれ、そして冷え切った体を宿の温泉で回復させ、第2ラウンドは宿の正面にある居酒屋に移動しました。
暇そうなおばちゃんが一人で回している店でした。
温泉街にある小さい居酒屋で飲むという行為は普段の登山からするとなく、滅多にないアダルトな旅情体験でした。
東京から豪雪地帯の新潟に嫁ぎ、旦那は現在他界して一人でやっているという境遇を聞いたりして、少しシンミリする夜でした。
平ヶ岳の登山を終えて
登山を運動やスポーツではなく、旅と捉えている自分は、ここ数年のブログで使わなくなった単語があります。
「リベンジ」、「挑戦」、「コースタイムを巻いて」など。
山はそこにあり続けているだけで、天候を読めなかったり、体力不足や体調不良は自分の責任なわけです。自分に向けての言葉だったとしても旅ではなく、登山というスポーツになってしまうので、使用を極力避けています。
神社仏閣や景勝地を巡るのに「リベンジ」や「挑戦」という言葉は使わないし、敵意を含む言葉を山に向けるのはおかしいなと思っていたりもします。
観光客的登山者である自分にとって、日帰り最難関と言われるだけあり、道中の長さは厳しかったです。特に台倉山から平ヶ岳に至る樹林帯の水平移動が一番長く感じました。
しかし、序盤の想定外の赤一色の紅葉に魅せられ、山頂に平らに広がる高層湿原に心落ち着き、東京から長い時間をかけて登りに来た甲斐が十二分にある風景でした。
長く険しい旅になることは間違いありませんが、苦労の果てに報われる山ということは保証できます。
そして、疲労と空腹の極限で食べたおにぎりは人生で一番の美味しさでした。
「平ヶ岳に登りにいかない?」
と誘われ、また訪問となると躊躇してしまいますが、再び登りたいと思える山です。
コメント
こんにちは。
以前、裏磐梯でダブルストックを置き忘れて失くしたとコメントした者です。
久しぶりに読ませて頂だいた処、平ヶ岳山行のブログを拝見し、私もこの年2014.7.15に経験した平ヶ岳山行を思い出しました。私が登った7月は新緑と共に所々に残雪が見られて往路は感動の登山でしたが、復路の下山は、暑さと疲労で下山口までが長かった記憶があります。そして、下山口近くの小川で顔を洗って、やっと平ヶ岳登山が終わったと実感した事を思い出します。
ヘッドライトを付けての下山は、それまでの疲労感が重なって辛かったとお察ししますが、駐車場に着いた時の達成感は大きかったのではなかったでしょうか?
余談ですが、ラブピンクさんが使用したザッグが、私が平ヶ岳用に購入したNORTHFACEのCAELUSイエロー色で同じザッグでした。
microdietさん
再びのコメントありがとうございます。
夏に平ヶ岳に登られたのですね。
往路は途中の平坦な道を除いて、目新しさに距離を感じさせなかったのですが、帰路が異様に長く感じました。
歩いても歩いても駐車場につかなく、真っ暗になり…。
駐車場に着いたとき三人でハイタッチしました。
夏は夏で、往路は涼しい時間帯ですが、帰路は暑そうです…。熱中症になったら絶望的ですね。
イエローカラーのザックは目立ちますね!
ラブピンクさんはあのTシャツ以外は基本黒いので、踏切などの注意喚起カラーになってます。