2018年1月27〜28日
八ヶ岳の赤岳に行ってきました。標高は2899mです。
厳冬期でも人気のある八ヶ岳エリアは初心者から上級者まで、幅広く雪山登山ができるエリアです。赤岳のある南八ヶ岳は穏やかな北八ヶ岳とは違い、岩壁の急峻な登りがあり、危険度が増します。
今回は標高2722mにある赤岳天望荘に宿泊し、1泊2日の行程で行ってきました。
1か月前に計画を立て、小屋の予約も準備OK、集合時間も万全でした。
しかし、開催日の直前になり雲行きが怪しくなり、いざ前日に発表された天気予報を見て絶望する。当日の天気は「晴れ」、何の問題もない。
気温₋24℃、風速19m
極地のようなコンディションにメンバ一同困惑する。数字だけを見ると人間がそもそも生存で謎なのです。未知の状況に果たして厳冬期八ヶ岳の旅は無事終えることが出来るのか…。
赤岳(厳冬期)について
地図
行者小屋から赤岳の核心部の地図です。
1日目は地蔵尾根で赤岳天望荘に宿泊、2日目は赤岳山頂から文三郎尾根で下山しています。ピンク色のが特に危険だと感じた部分です。
コースタイム
- 9:18美濃戸口
- 10:13赤岳山荘
- 12:56行者小屋
- 15:37赤岳天望荘
- 7:35赤岳天望荘
- 8:24赤岳
- 10:23行者小屋
- 12:42美濃戸口
赤岳 雪山登山(1日目)
赤岳の玄関口、美濃戸口から林道歩き
未明に都内を出発し、八ヶ岳が見えてきました。昨日の天気では八ヶ岳は朝から快晴予報でしたが、てっぺんにぶ厚い雲が覆いかぶさっています。
諏訪南ICから降りて、美濃戸口を目指します。インター周辺にしかコンビニがないので注意が必要です。
9時過ぎに美濃戸口にある八ヶ岳山荘の駐車場に到着しました。
日帰りの場合は未明の到着になりますが、天望荘泊の場合は7時~9時頃がちょうど良いかと思います。中腹の行者小屋と赤岳鉱泉泊をして、翌日にピークハントをするのであれば、昼前の到着ぐらいで大丈夫。
6年ぶり2回目の登山口なので、前回来た時になかったものが増えています。登山口にある「J&N」という宿泊できるレストラン。山屋のおじさんが少し入りずらいお洒落さ。日帰り入浴もできるので、バスで来ている人たちには重宝されているのかも。
庭では店の番犬のハスキーと近所のお散歩犬が、ケンカと間違えるくらいに激しく噛み合いながら、じゃれていました。
厳冬期の赤岳を前に登山口でほっこりさせてくれる光景です。
準備を終えて出発します。
夏は赤岳山荘までの林道を一般車で行けますが、冬は4輪駆動のチェーン付きでないと走行不可能となります。追い抜いていく4駆に「ッチ」と悪態をつきつつも、「乗ってけよ」と声を掛けられたら、尻尾を振りながら乗せて貰うことでしょう。
途中にショートカットできるルートが2か所ほどあった気がします。
美濃戸口から行者小屋まではチェーンスパイクがおすすめ。12本爪はオーバースペックで、足が重たくなるので疲れます。
車の中にゆうちゃんがバラクラバを忘れてくるハプニングがありました。時間をロスするより、途中で購入できることを信じて進むことに。
林道を歩き続けて、ようやく山荘が見えてきました。
赤岳山荘は営業していて、バラクラバが売ってないかをチェック。
奇跡的にバラクラバが売っていて購入するゆうちゃん。
お値段4000円以上と痛い出費ですが、今日は風速19mの予報。顔が凍傷になるダメージと治療費を考えたら必要経費です。
山荘の敷地内では水をかけてアイスクライミング用の壁を作っていました。
進行方向の赤岳方面はまだ雲に覆われているようです。
ホワイトアウト状態の極寒強風の中では登れないとわかりきっているため、今回の登山に「やっちまったかな…」と、だいぶ悲観的な状況でした。
この駐車場に辿り着くエリートな車たち。一台だけ軽自動車がいたのに驚きました…。
赤岳山荘から少し歩くと美濃戸山荘があります。営業していませんが、トイレは凍結していないものは使えるようでした。大体のパーティーが、ここで装備を整えます。
南沢ルートで行者小屋、後半の樹氷の森の北欧感
北沢と南沢ルートの分岐です。
行者小屋に行くため、南沢ルートを進みます。
序盤は凍結していない沢が流れています。その上に付着した雪は結晶のような状態で、弾けていました。北海道の阿寒湖にできるフロストフラワーのちっこい版。気温の低さと無風状態でできるらしいです。
行者小屋までは八ヶ岳らしい、しらびその樹林帯が続きます。序盤に傾斜があり、あとは緩やかに登っていく感じです。
気温がマイナスとは言え、樹林帯は風がなく、フリースを一枚インナーとして着ているだけで十分でした。寝不足か気温の低さから来るのものなのか、緩やかな傾斜に対して、緞帳なペースで、3人とも息を切らせながら歩いていました。
ニット帽とネックウォーマーなどの防寒具をつけると汗をかき、汗をかいた状態で止まると一気に体が冷えるという悪循環のため、防寒をゆるめた状態で歩きます。
標高が上がるにつれて、雪の量が増えてきました。
月曜日に関東地方で大雪が降りましたが、八ヶ岳の積雪影響はそれほどでもなかったようです。それでも当たり一面の雪景色。
木々の緑や茶を全て雪が覆うようになってきました。
霧氷がとても綺麗に仕上がっていました。
2018年の冬は八ヶ岳の周辺で雪がそこまで降ることはなく、例年通りに雪が少ない印象でしたが、平日に多少の降雪があったようでした。
まっすぐ伸びた幹にびっしりと雪が付着しています。木々の間隔が濃いのに不思議です。
八ヶ岳の「8」を表現するゆうちゃんを見ればわかるようにボルテージが上がってくるゾーンでした。
黙々と歩くSaku兄は月に1回か2回ほどの登山ペースになり、自身でも認めるくらいに体力低下が激しいので、15分に一回は休憩が必要になっています。
かくいう、自分も数年前までのガツガツしたペースは出せなく、北アルプスの白馬三山を日帰り周回、九州の山を4日連続日帰り登山が出来た頃が懐かしいです(遠い目)
樹林帯から雪原に抜けると、今までとはガラリと雪景色のパノラマが広がる冬の八ヶ岳の世界に変わりました。
しらびその樹林帯に両サイドを囲まれ、落葉樹の繊細な霧氷が美しいです。北欧感のある風景です。
夏場は沢になっているとこだったっけか…。前回は早朝に登ったので暗い場所の印象でしたが、ここは日中帯に通過するべきと思いました。
樹林帯の奥には八ヶ岳の主峰が巨大な壁のように立ちはだかります。現在地点の標高差からなのか遠近感が狂って見えます。
今回のターゲットである赤岳が、雪原の果てに君臨しました。登山口では分厚い雲がかかっていましたが、すっかり取っ払われていました。
荒々しい岩の陰影が攻撃的にも見え、登山者としては凶悪な迫力を感じます。
赤岳と言う名前は酸化鉄の赤い岩肌から付けられたもので、冬の時期はそれがすべて雪の白で覆われています。
行者小屋着(12:56)
赤岳の登山拠点である行者小屋に到着です。
山の中腹、樹林帯の位置にあるため、稜線より積雪が多く、小屋の半分が埋もれていました。今までどこにいたんだろうと思うほどに登山者が多かったです。
膀胱ミニマリストのSaku兄はここでトイレを利用、感想は「なかなかだった」です。
行者小屋はキャンプ指定地になっているためテントがちらほらと設営されていました。マイナス20℃の中で、ナイロン1枚か2枚の薄壁で寝れるって、人間は逞しい生き物です。
雪山テント泊はやりたくないですけど。
危険な稜線に出ずとも、ここで引き返しても十分な満足度があります。
冬の赤岳は刺々しく、登山者を寄せ付けない形をしています。
一方で、ドーム状の丸みを帯びた形をしているのは阿弥陀岳です。行者小屋から見る阿弥陀岳は穏やかですが、稜線上から見ると人を殺しにかかる鋭角さがあるので、角度によって雰囲気がガラリと変わる山です。
日本画家の東山魁夷の絵にあるような雪をまとう純白のしらびその樹林。
「(生まれて間もない)子供を抱くまで、こんなところで死ぬわけにはいかない」
ゆうちゃんが死亡フラグをビンビンに立てるセリフと共に、後に発見されるカメラに「八ヶ岳をバックにイキる登山者」をメモリに収録しました。
滑落したら奈落の底へ、死が隣にある地蔵尾根の登攀
行者小屋から赤岳は二通りの道が分岐しています。地蔵尾根と文三郎尾根です。
宿泊地である天望荘への距離が近い、地蔵尾根を登りで使うことにしました。ここまでは難なく来れましたが、ここからは稜線で予想される強風にビビり、装備を整えました。
12本爪アイゼンとピッケルを装備します。
写真を撮るときの小道具になるピッケルですが、地蔵尾根では使用されることになります。行者小屋から少しの間は樹林帯です。
前回(2011年)も地蔵尾根を登っていますが、さすがに全くもって記憶がありません。
徐々に見晴らしがよくなり、しらびその樹林帯を抜けました。白くなった霧氷が綺麗で見惚れてしまいます。
50センチほどの窪みのトレースがあり、安全でした。
下山してきた若人二人組が「稜線の風がやばかったです、気をつけてください」と脅されました。まだまだこの辺は無風で、着込んだ衣類で暑い。
急斜面に設置された階段が出現しました。アイゼンで登りにくく、この辺りは本当に怖かったです。
霧氷の森の中を歩きます。翌日には一晩中の強風で吹き飛ばされていたので、初日に見れてラッキーでした。
時間をかけながら楽しみたいところですが、日没も徐々に近づきつつあります。
森林限界を抜けました。
転んでお尻を付いてしまったら大変なことになるだろう角度です。振り返るのも慎重さと勇気が必要です。
確実に技量以上のところに来てしまった感があります。ピッケルを山の斜面に差し込んで、一歩づつ安全確保しながら登ります。
森林限界から少し経つと岩場になり、階段や鎖場が露出していました。階段は慎重に登らないとアイゼンをひっかけて転びそうになるので、注意しながら登ります。
本当に危険なところは写真を撮っている余裕はありません。振りむく時はピッケルを根元まで指して、しゃがみ込んで上体だけを捻じってます。
地蔵尾根の目印なのか、一か所だけお地蔵さまが掘り返されていました。どうか我々にご加護を。
鎖を頼りに登る場面もあります。岩場の斜面では雪があまり付着しておらず、ピッケルが10センチちょっとしか刺さりません。
稜線が近づいてきました。
雲が尋常でない速度で、流れ続けています。
尾根筋の片側は雪庇になっていたりと、まだまだ緊張は緩められません…。
文三郎尾根から登り、地蔵尾根を下る登山者がいますが、よく下れるなこんな急斜面の尾根…。結果的に地蔵尾根を登りに使って正解でした。
今回の宿泊地である天望荘が見えてきました。少し安堵です。
さあ、ラストスパート。と、思った次の瞬間。
ナイフリッジが出現。
両側が切れ落ちた急峻(きゅうしゅん)な尾根のこと。通過には危険を伴うことが多い。
写真ではうまく伝わりませんが、落ちたら体を止めようのない斜面です。鎖あるじゃんと思いますが、ナイフリッジと並行する位置にあり、うまくステップがありませんでした。
ナイフリッジにピッケルを指して、慎重に側面を渡りました。わずか2mの距離でしたが、この尾根で一番肝を冷やしたポイントでした。地蔵尾根を歩いているときは強風が吹いていなくて助かりました。吹いてたらまず無理です。
今日、赤岳に登る気力は完全に搾り取られました。予報的には土曜日がよかったのですけどね…。さて、ここから別の試練が襲い掛かります。
稜線に吹き付ける強風です。
稜線に出る直前で、背中に強烈な西風が襲い掛かります。風速19mの世界です。
行者小屋を出発して1時間30分で、地蔵ノ頭(じぞうのあたま)に到着しました。
命あって稜線まで辿り着けた感謝を込めて、お地蔵様の額に思わずキスをしたくなります。
稜線からは赤岳と阿弥陀岳をつなぐ稜線がはっきりと分かります。阿弥陀岳は毎年のように死亡事故が起きている八ヶ岳で最も危険な山です。
自分は行く気すら起きません。
こちらは赤岳とは反対方向の横岳に続く稜線です。
最初は両日とも晴れてれば硫黄岳まで行って大周回しようと一考しましたが、稜線の風を浴びて、風と共に貪欲さはどこかへ飛んでいきましたとさ。
写真右の西側から吹き付ける強風に耐えながら、天望荘を目指します。山頂部に掛かっている白いものは、雲じゃなくて噴き上げられた雪煙なんですよ?
稜線に出ると八ヶ岳から東側の展望が広がり、奥秩父の山々を見ることが出来ます。花崗岩の独特な山容の瑞牆山はわかりやすく、主峰である金峰山は森林限界を超えた一帯は雪に覆われ白くなっていました。
そして、南には堂々たる富士山が見えます。
八ヶ岳から富士山を見るのは久しぶりです。天狗岳以北の北八ヶ岳エリアからは、赤岳が邪魔して富士山が見えないので。
確実に体を蝕む強風により、展望を楽しむ余裕はありません。一刻も早く山荘に逃げ込まなければ、命はありません。
標高2700mの天望荘は、心まで温めるサービス提供
風がないってこんなにも違うのかと、天望荘の中は無風でした(当然)
チェックインを済ませ、1泊2日(2食付き)の料金を支払いました。ロビーまではアイゼンをはいたままでも入っていいようです。
天望荘では受付時にコップが配られます。
暖かいお茶とコーヒーを自由に飲むことができるのです。冷え切った体に暖かいお茶は染み渡りました。暖かい飲み物がこんなにも美味しいと思ったことはないかもしれない…。
天望荘のサービスに頭が下がる思いです。
また、受付時に館内案内のマップを貰いました。
天望荘は広いです。食堂と客室が遠いのが少し難点で、地下道に降りて、登り返すと客室があります。
最低気温-24℃。今まで体感したことない温度です…。
天望荘は雑魚寝の大部屋ではなく、3人部屋の個室になっています。ちょうど3人だったのでラッキーでした。
日の入まで少し時間があったので、荷物を乾かしたり、休憩を入れました。
夕焼けに染まる八ヶ岳連峰、肉たっぷりの夕食バイキング
小屋の中でぬくぬくしたいという当然の欲望を振り払い、日の入直前に外に出ました。
本来であれば30分前くらいからじわじわ変化する風景を眺めるべきなのでしょうが、依然として強風が吹き荒れているので、10分以上外にいたら命が危ない。
ごつごつと棘が生えたような横岳に夕陽が当たりオレンジ色に輝いています。
北八ヶ岳方面。
諏訪富士の名の通り、蓼科山は独立していて目立ちます。強い冬型の気圧配置のため、日本海側に位置する北アルプスは厚い雲に覆われていました。
阿弥陀岳の左肩に夕陽が沈んでいきます。
グラデーションする空と富士山の姿。
ただ、寒い。というより痛い。むしろ、肌が熱い。
ここは標高2722mです。真冬のこの時間帯に、日本で最も高いところにいるのは、天望荘の宿泊者なのではないでしょうか…。
外は極寒の環境ですが、内部はこたつでぬくぬくできる快適空間。このギャップこそが厳冬の天望荘の魅力なのでしょう。
Saku兄は「赤岳に次また来るときは、またここに泊まる。」と言っておりました。
お待ちかねの夕食です。
天望荘の夕食はバイキング方式です。トレイを渡されて、お替り自由です。
炊き込みご飯と豚汁。鶏肉がゴロゴロ入ったシチューと豚バラ大根と肉たっぷりのメニューです。厳冬期の山頂小屋で料理のクオリティも高いとは…。
食事をしていると山小屋の人が「湯たんぽが必要な人は手を挙げて下さい」と聞いてきました。
「はい、はい、はーい!!!」
大喜利にこたえる芸人並みの速度で手を挙げます。
食後に少し外に出てみると夜景が見えました。
天望荘からは長野県の諏訪方面と山梨県の夜景を一度に見ることが出来ます。
星空撮影は明かりがありすぎて微妙な様子でした。
自分は妙にぐったりしていたので、撮影は任せました。気温は上がっていたようですが、風は強いままだったので10分も外にいられない状態。
赤岳 雪山登山(2日目)
厳冬期八ヶ岳の日の出、湯たんぽで快適な布団生活
長い長い夜が明けて、2日目です。
湯たんぽサービスのおかげで外気₋20℃以下の環境でも快適に眠れました。フリース一枚で十分なくらいです。
日の出前に朝食の時間です。夕食同様にバイキング形式。
ウィンナーや卵焼き、野菜と十分すぎるメニューです。デザートのオレンジが美味しくて、ずっとむしゃむしゃ食べてました。
日の出を見るために外に出ると、既に出発している登山者がいました。昨日のヒャドを唱えられたような風はありませんでしたが、10m前後はあります。
山頂で待機する根性がないので、ホットドリンクをお供に天望荘で日が上がるのを待ちます。
本日は高曇りしているエリアがちらほらあるものの見通し良好。昨日は雲に覆われていた北アルプスがはっきりと見えました。
我らが富士山も見えています。
1月下旬なのに雪が斑に感じます。今年も降雪が少ないのかな。
奥秩父山塊の奥から太陽が登り始めました。
雪煙が手前で舞っているので、ピントが奥に合わないのに苦慮します。位置的に大弛峠(おおだるみとうげ)と金峰山の中間の朝日岳でしょうか。
あまりの寒さに誤作動を多発するSaku兄のカメラ。
ネイチャーフォトグラファーには極寒と言う環境は大敵です。バッテリーをカイロで暖めるとか面倒くさいことができないのでプロにはなれません。
天望荘に宿泊したことによって、今日は赤岳の山頂までの1時間以内しか登らないと言う、気の緩さがあります。
太陽は完全に姿を現しました。
北アルプスはその太陽の光を受けて、朱色のラインを空に描いていました。
白馬岳の方面。
日本海に近づくにつれて雪の量が確実に多くなっていきます。
お隣の横岳は昨日よりだいぶ雪がないように見えます。夜ずっと吹いていた強風によって、雪が吹き飛ばされているようでした。
蓼科山は山頂だけ太陽の色に染まっていきます。まるで、おっぱ…。
過酷な自然環境と向き合うネイチャーフォトグラファーの戦いは続くのです。
厳冬期の赤岳山頂へ向けて、爆風の稜線トレッキング
クッソ寒いのはもう勘弁と、天望荘で最後のホットドリンクを飲みこんで、準備を終えて出発です。凍傷の危険があるので、ゴーグルとバラクラバで顔を完全コーティングします。
しかし、Amazonで買った安物なので吐き出す息ですぐ曇るのが難点。
話は初日の出発前の深夜に遡るが、Saku兄は厳冬期の赤岳登山にあたり、不足した装備を三軒茶屋のドンキ(系列のピカソ)で購入する暴挙に出た。
ネックウォーマー、バラクラバ、グローブ、しめて2500円と、赤岳の標高よりも低い値段となった。ネックウォーマーを別にワークマンで購入したことから「ワークマンSaku兄」を襲名し、赤岳を「現場」と表現することになる。
※善良な登山者は必ず計画的な装備の購入をしましょう
話がそれましたが、今日のスタート地点は2722m、標高差177mの登山です。
天望荘の横から赤岳山頂に向けて歩き始めます。
進行方向右側は西風が当たるので、雪が完全に吹き飛ばされて、岩の斜面が剥き出し状態でした。
夜中、ずっと風が吹いていると雪ってなくなるんですね…。
山頂直下は片側が急斜面であるため、ピッケルを指しながら慎重に歩いてきます。
高曇りの天気ではありますが、360度の展望があります。徐々に天気が崩れる予報だったので、不安はありましたが、結果的に登山中は晴れていました。
県界尾根の分岐を過ぎると本日の登りは終了です。
山頂からわずか3分の好立地にある赤岳頂上山荘は冬季の営業はしていません。山頂が吹き曝し状態だったので、小屋の陰で休憩している人がいました。
山頂への最後の稜線は、出だしだけ細く結構怖い…。
富士山も正面に見えます。危険度は抜きにして、地蔵尾根から周回するルートの方が盛り上がりがありますね。
感無量の厳冬期赤岳山頂、そして大パノラマの風景
赤岳山頂着(8:24)
天望荘をスタートして50分程で到着しました。八ヶ岳の最高峰からの眺めは遮るものがなく、やはり別格です。登山初期の頃に登ったきりだったので、新鮮な気持ちでの登頂です。
赤岳は長野県と山梨県の両県に跨がっていますが、両県の標識が相反した方向を向いています。標準フォーマット化されている山梨百名山の看板より、長野県の団子3兄弟の山頂看板の方が目立ちます。
それでは、赤岳の山頂から見える山々を見ていきましょう。
八ヶ岳の北端にある蓼科山です。
南八ヶ岳の権現岳と編笠山が見えます。
南八ヶ岳からキレット経由しての赤岳というのは、いつか歩きたいと思っているルートです。こう見るとすごいアップダウンあるな…。もちろん夏に。
バックにそびえる山脈は南アルプスです。中央に甲斐駒ヶ岳があり、右に仙丈ヶ岳、左に北岳と間ノ岳があります。
中央アルプスもばっちりと確認できますが、一つ一つが際立たないので、どれが木曽駒ヶ岳で空木岳なのか少し判別がつきにくいです。
中央アルプスの手前にスキー場が目立ちます。「富士見パノラマリゾートスキー場」で、中央道でアクセスしやすいゲレンデの一つです。
ロープウェイを利用した入笠山の雪山登山は初心者にうってつけの山です。
北の方角には霧ヶ峰と美ヶ原を確認できました。
冬にスノーシューなどで歩いても楽しそうですが、緑の茂る夏に訪れたい場所ですね。
赤岳の正面は阿弥陀岳がそびえています。市街地に近く眺めも抜群そうですが、とても初心者が登れるような角度をしていません。夏に登りましたが、異常に急斜面で怖かった思い出。
ズームしてみると4人パーティーが登っていました。雪崩が起きたら一溜りもありませんね。
そして、阿弥陀岳の奥には2つの独立した山が目立ちます。
北アルプスの南端の乗鞍岳。同行したSaku兄とゆうちゃんは冬に登っているのですが、なかなかのロングコースで大変なようです。
2014年に噴火し、大勢の犠牲者を出した御嶽山。
山頂はいまだに規制がかかっています。登頂したときは同じ風景ではないかもしれませんが、日本を代表する3000m峰だけに、あの風景をもう一度見てみたいです。
北東の方角には浅間山がどっしりと構え、奥には上越国境の山々が見えていました。
雲が太陽の光を吸収して情緒的で穏やかな富士山です。日の出の時間帯にはなかった、中腹の雲がいつの間にか湧いていました。
以上、八ヶ岳の最高峰赤岳、標高2899mからの展望でした。
到着時は誰もいませんでしたが、後から続々と登山者が登ってきました。行者小屋に宿泊していた人達でしょうか。皆さん朝早いですね…。
最大15人くらいは山頂に人がいる時間がありました。厳冬期とはいえ、さすが赤岳です。
雪と岩がミックスされた文三郎尾根で決死の下山
赤岳山頂発(9:08)
自分たちにしては珍しく滞在時間40分ほどでの下山開始です。普通の人は厳冬期の赤岳の山頂に10分もいませんよ?
標高2800mの現場から富士山を眺めるワークマンSaku兄。
ワークマン装備の感想ですが、ネックウォーマーが必要以上に熱い、バラクラバはあまり息ができずサングラスが曇る、グローブは上々(元々がスキー用のお下がりだったため評価できず)と言っていました。
地蔵尾根に戻る気はなく、文三郎尾根で下山します。
尾根の分岐までがデンジャラスで、露出した岩壁と雪がミックスされた、アイゼン泣かせの登山道です。
頂上直下にある分岐を文三郎尾根方面へ。
この季節にキレットなんてのを歩く人がいるんでしょうか…。
岩の上にアイゼンを置くと不安定なので、ピッケルと鎖を使って、俺たちの三点支持で下っていきます。
無事に難所を通過して一安心。阿弥陀岳が間近に迫ってきました。
自分たちは不可能ですが、赤岳を日帰りで登れるような体力系登山者なら、きっと登れると思います(適当)
赤岳の岩壁に張り付き、クライミングしている人がいました。山頂では見える景色は同じなのに、いろんなルートの選び方は人それぞれなのですね。
同じ学校でも、一貫校でエスカレーターで入学する人、難関入試を受けて入学する人と同じように。違うか。
文三郎尾根分岐(9:50)
山頂から40分弱で文三郎尾根の分岐点に到着しました。
命の危険があったのはここまで、文三郎尾根は急ではありましたが、地蔵尾根ほどの厳しさはありませんでした。この時間になるとすっかり曇り空で、一番いい時間帯に登れたなと思います。
眼下に見える行者小屋を目指して尾根道を下っていきます。時折、強風が吹きつけるため、そこだけ注意が必要です。
お互いにロープを結び合い、下っているパーティーがいました。
きちんと訓練されていないと、一人が滑落すると、みんなが共倒れなんてこともありそうで怖い。
樹林帯まで降りてくると風もなくなり、汗をかくほどでした。
行者小屋(10:23)
1泊をかけて無事に周回完了です。本格的な雪山登山は年に2回か3回しかやらないので、歩行時間はそれほどでしたが、たっぷりと疲労しました。
モノクロの景色になっていました。
土日両日共に晴れた週末でしたが、テント場には20帳もありませんでした。さすがに気温₋20℃だからでしょうか。真冬のテント泊装備を一式買うより、小屋を使った方が安上がりの登山頻度なので、自分は真冬のテント泊はやることはないです。
昨日と比べて、だいぶ雪が飛ばされて岩肌が露出していました。
比較してみると一目瞭然です。
休憩がてらに行者小屋の内部を見学してみます。ランチメニューのカモシー丼と行者ラーメンが気になるところです。
North Faceに発注したカモシカ?のキャラクターのTシャツが販売されていました。山ガールがInstagramで着た写真をアップすれば、いいねが稼げそうですね(棒)
曇り空になり、粉雪が舞い始めました。気温がグッと冷えたように感じられ、「山になんていたくない、早く帰りたい、熱い風呂に入りたい」と弱音を爆発させ、そそくさと撤退です。
赤岳登山口(11:56)
来た道を黙々と歩き続けて、登山口まで到着しました。ここがゴールだったらどんなに嬉しいことだろう…。
美濃戸口(12:42)
ゾンビのように林道を歩きながら、無事に美濃戸口まで帰ってきました。生死をかけた1泊2日の赤岳登山でした。最後の最後に川を渡るので、坂があるのが曲者でした…。
温泉後は諏訪で長野県一?の餃子を食べる
登山口の小屋でも日帰り入浴があるのですが、伸び伸びできないので、車で移動し、尖石温泉「縄文の湯」に入りました。マイナス₋20℃に曝された体に熱い湯が染み渡りました…。
Saku兄の鼻が黒ずんでおり、凍傷になったんじゃない疑惑がありましたが、治ったんでしょうかね?
八ヶ岳を下山したらロクな食い物がない問題を払拭するべく、長野県で一番の餃子店と自己評価?がある「ぎょうざの焼吉」にやってきました。
アクセスは非常に難あり。諏訪の幹線道路からも住宅街からも離れた、田んぼの一角にあります。
個人経営の店内は狭く、10席ほど、雑然としています。
店主が漫画「ONE PIECE」が好きなのか、店内のテレビはBGM代わりにワンピースのアニメが流され、イラストがあったり、漫画内で登場したメニュー(ジャガイモのパイユなど)が売っていたりします。
個性的なメニューはさておき、餃子が食べたい一同。
6人前をドサッと注文。圧巻だけど、登山後と言うこともあり、スナックレベルにペロリです。
皮から手作りで、地産の野菜を使用し、様々なこだわりのスパイスが入っていると店主が語ってくれました。気さくすぎて、食べるペースが作れないくらいに…。
非常に美味であることは間違いありません。
シンプルなチャーハンを頂きました。
登山後には、少し量が足りなかったけど実に満足です。
餃子屋から外に出ると雪が降っていました。
しかし、長野は寒い…。
日曜日の午後でしたが、中央道は渋滞せずに帰れました。冬は関越道に渋滞が発生し、中央道がスカスカになるのが良いですね。
赤岳(厳冬期)の登山を終えて
2018年雪山大一番で企画された赤岳1泊2日。
一歩踏み外せば滑落死と肌の露出による凍傷の可能性に怯えながら、自分が行ける雪山難易度ラインを少し超えていましたが、五体満足で無事に帰って来ることが出来ました。
行者小屋で見る絵画を超えた純白の風景、稜線で見る日の出・日の入、全方位に広がる展望、余すことなく冬の赤岳を堪能させて頂きました。
厳冬期の八ヶ岳の展望もさることながら、赤岳天望荘に感動する旅でした。
強風吹き荒れる気温-20℃以下、南極に相当する極寒環境の中で、こたつでぬくぬくしながら、暖かいコーヒーを飲み、バイキングでお腹を満たし、湯たんぽでぐっすり。アメとムチの特殊な経験ができました。
勿論、稜線上にあるので日の出・日の入が外に出れば、すぐに見れることもメリットです。
冬でも特急あずさと路線バスを利用すれば、都心部からのアクセスも可能です。冬季営業している山小屋が随所にある八ヶ岳は自分のレベルに応じて、バリエーション豊富に楽しめる山域です。危険が伴うピークハントをせずとも、行者小屋付近までスノートレッキングするだけでも十分楽しめます。
一歩間違えれば死亡リスクのある厳冬期の赤岳をおススメはできませんが、八ヶ岳は四季で楽しめる山域だと再確認しました。次回は初夏から秋にかけて訪れたいです。
赤岳(夏山)の記事はこちら
2011年に登った夏の赤岳の登山記事です。
夜行バスで美濃戸口をスタートして、赤岳と阿弥陀岳を日帰りで登っています。若かったな…。
コメント
雪山にも、ちゃんと行ってるじゃないですか!(o^^o)
veryさんの写真で、遠くに見えてる真っ白な白馬は神々しすぎて恐いくらい。
改めて冬の雪山に魅了されます…
とはいえ…自分は冬山は登らな〜い
(^^;;
憧れるけど、登らない。…。
代わりにスキーで冬の山、楽しんでます!
先日はグランデコっていう会津のスキー場に行ったのですが素晴らしいゲレンデでした♡
磐梯山ジオカレーってやつも期待以上の美味しさだったので、行く機会あったら是非食べてみて下さい。(o^^o)
でも、スキーばかり3回続きだったのでveryさんのブログでも紹介されてた宝登山にでも登ろうかと思ってます。
もう蝋梅は終わってしまったかもだけど、梅なら咲いているかな〜なんて。(o^^o)
筑波山にも咲いてるんですけどね。(^^;;
また美しい写真付きブログ楽しみにしてます!
>ユメミンさん
コメントありがとうございます。
雪山の景色を見るだけであれば、山に登らずとも楽しめますね!!!
ゲレンデで晴れると滑りにくいかもしれませんけど。
グランデコスキー場は行ったことありませんが、西吾妻山という樹氷(スノーモンスター)が有名で、登山をしてみたいと思っています。
自分はアルツ磐梯で2回ほど滑ったことがありました。同様なものかはわかりませんが、カレーだけでワンフロア施設があるところでした。
そういえば、そろそろ梅の季節ですね。
こちらはばたばたしそうな3月、4月なのですが、隙を見つけて登りに行こうと思っています!!!
めっちゃ素敵な写真で感動しました(^ ^)天才ですね、ブルーさん。
こんな景色いつか見てみたいな。この前スノートレッキングしよう!と思い立ちましたけど、悪天候でロープウェイ止まってたという。。あ、今年はテント泊してみようと、とりあえず寝袋だけ買いました笑
くれぐれも気をつけて下さいね、冬山
>さくらのさん
コメントありがとうございます。
素敵な写真とおほめ頂きありがとうございます。
10分もボーっとしてると死んでしまうような環境で撮影した甲斐があります。
スノートレッキング残念でしたね。冬は天候がかなり重要になって来るので、無事と言うことでよかったのかもしれません!!
雪山は今年はもうやらないかもなので安心してください…。
テント泊のレポートをお待ちしております!!!!
ブルーさん、お返事ありがとうございます(^ ^)
寝袋はダウンを買ったのですが、やはりシェラフカバーは必需品ですかね?
あと、あの。。
今回の雪登山ですが、導入の部分で赤文字で思いきし
「気温24度 風速19m」的にあったので、
(ふーん、風は強いけどめちゃ暖かったんだ♪)と思いながら読んでしまいました笑
ー24、ですよね(^ ^)
>さくらのさん
寝袋は私は持っていません。
雪山や氷点下の高地で宿泊する予定がなければ、大丈夫かと思います。
寒かったら自身が着込む、水筒などを利用して湯たんぽを作るなどでカバーできそうです。
気温の表記ですが、小文字のハイフンを使ったせいで、閲覧環境によっては見づらかったかもしれません@x@
普段マイナスを使わないですよねえ。
とっても久々に訪れました。
一時期更新されてなくて大丈夫か!?と不安になったりもしてましたが
(よく見返すと2015年?)復活してばりばりやってたんですね。
厳冬期の赤岳とは相当ですね。お疲れ様でした。
またちょくちょくお邪魔させていただければと思います。
たいそんさん
ネット回線の問題で更新が滞っていた時期があります。
一応、頻度は減れど毎月のペースで登っています。
一日でギュッと詰め込んだ登山はせず、その山を一日かけて満喫する登山に変わってきています。
またの閲覧お待ちしています。